*二度と会えない大好きだった少年の話*
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あの公園でヒロトに会ってからは毎日のようにサッカーをした。
雨が降ろうものならお互いの家で遊び、雪が降ろうものならば一緒に雪合戦をした。
時には彼の妹の瞳子ちゃんも交えて遊んだ。
瞳子ちゃんは私の事を"花梨姉さん"と呼んで慕ってくれていた。
一人っ子だった私は本当に妹が出来たみたいで凄く嬉しかった。
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そして月日は経ち私たちは中学生になっていた。
同じ中学に入学してクラスまで同じになった。中学生になっても私たちは相変わらずいつもの公園でサッカーをしていたんだ。
何時頃からだろうか・・・
ヒロトがサッカーをしている時にふと、どこか遠くを見て悲しそうな顔をするようになったのは・・・。
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最近のヒロトが分からない。
どこか調子が悪いのかと問えば"なんでもないよ"と笑うだけ・・・。
でもその笑顔にはどこか引っ掛るところがあって・・・
しかし体調が悪いのではないということは少なからずヒロトが自分で言わないと分からないことなわけで。
でも誰だって言いたくないことはあるわけだしいくら仲がいいからと言っても、結局は血が繋がってない他人になるわけでして・・・。
そんな他人の私がずかずかと踏み込んでいいものなのかと考えると不安になっていしまう。
でも、一人で悩んでいるヒロトを放っておくことなんてできるわけもなくて・・・
結局私はヒロトに聴いてみることにしたんだ。
きっと私に言いたくないことならば適当に誤魔化してくれるだろう・・・そう思って。
「最近さ、ヒロト調子悪いね。何か悩み事でもあるの?」
「あー・・・んーとさ、ちょっと相談したいことがあるんだ。聴いてくれる?」
追いかけていたサッカーボールを拾い上げ真っ直ぐ私の目を見て言った。
どうやら話してくれるらしい。よかった。もし誤魔化されちゃってたらそれはそれで悲しいもの。
私は軽く頷いてヒロトが次に続ける言葉を待った。
「この前さ、父さんに"サッカーでプロを目指したいのなら海外留学してみるかい?"って言われてたんだ・・・。」
「・・・え!?ヒロト海外留学できるの?良かったじゃん!おめでとう。」
私はまるで自分の事のように嬉しくなってヒロトの手を取りそう言った。
プロのサッカー選手になるにはやっぱり国内だけじゃなくて色んな所を見るべきだと思うし、外国で練習すればヒロトのサッカーはもっと伸びる。そんな気がしたから。
でも私がそう言った時のヒロトの瞳が一瞬悲しみを映したような気がした。
あれ?私何か変なこと言ったかな。
「・・・でもさ・・・」
「ん?どうしたの?」
少し俯きながらヒロトが口を開いた。
やはり何か問題でもあるのだろうかと心配していた私だけど、ヒロトの口から続く言葉にいろんな意味で言葉を失った。
「でも、海外に行ったらさ、花梨と毎日こうやってサッカー出来なくなるじゃないか・・・。」
え?嘘。
あれ・・・?それってさ、もしかして・・・
「・・・もしかして、もしかしてだよ?最近ヒロトが元気なかったのって・・・それが原因・・・だったりする?」
「・・・うん。」
やばい、色々とやばい。なんだこの可愛さは。乙女かって・・・。
そんな事に本気で困っているヒロトがあまりにも可愛くてついつい小さく吹き出してしまった。そうするとヒロトはなんで笑うんだよとむっとするが、こればかりは仕方がない。
そして、真剣に考えてているヒロトには悪いと思ったが私は少し・・・いや、かなり嬉しかった。
確かに、ヒロトと毎日サッカー出来なくなるのは悲しいし寂いしいけど、ヒロトの夢に向かって一歩前進できるということはいいことだと思うし、そして何より私とのサッカーをとても大切にしていることがわかったんだ。嬉しくないはずがない。
「・・・もしかして花梨はさ、俺とサッカーするの嫌だった?早くどこか行けって感じ?」
冗談のように言っているけど目が真剣だった。私の無言をどのように取ったのかは分からないけど、そんな事あるわけないって普通すぐ分かるのにね。
「私が嫌いな人と毎日サッカーできるような人に見える?」
そう言うと彼はひどく安堵したような顔をして私に笑いかけるんだ。
「見えない。てかそんな器用なこと花梨には出来ないでしょ?」
なんか遠まわしに馬鹿にされたような気がするけれど、まあいいか。
彼の笑顔を見ると私も嬉しくなるのだ。
彼が笑うだけで心が温かくなる。
この感情が何なのかあの頃の私には分からなかった。
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*彼と会えなくなるまであと何日?
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