とりこ

□1話
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「ガルル…」

今、私の目の前には甘える白くて羽の生えた大きな虎がいる。
おそらく2メートルから3メートルほどだ。

「…なにこれ…デジャブ?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



記憶は数分前に遡る。
私は夜食を買うために家から十分ほど離れたコンビニへ向かっていた。
家はそこそこ立派で夜食なんてホントは家に居る人に言えばスグ手に入る。(っていうか、周りが自分が買いに行くとうるさい。)だけど、今日は何となく散歩がしたかったので、普通の高校生の軽く10倍は入っているだろう財布をもち、家を出て、庭を歩いていた。
ふわりと心地いい風が髪をなで、ふと空を見上げると普通は黄色いはずの月がまるで血のように紅に染まっている。

「え…?」

赤い月を見て一瞬。
瞬きをした瞬間に、周りの風景は一変して大きな森が私の周りに広がっていた。

「どこ…ここ…」

空に浮かぶのはさっきの赤い月ではなく、サンサンと輝く太陽。
先ほどの見慣れた風景とは一変して、全く知らないところを目の当たりにし、私は驚きに包まれた。

ガサッ

一体何が起こったのかと頭がパニック状態のところへ10メートルほど先にある茂みが揺れた。そこから出てきたのは、白く体長3メートルほどはあろうかという羽の生えた虎。
その虎は私を見て、何をするわけでもなくジッと私の目だけを見ていた。
しばらくしてその場から動いたと思えばこちらに歩み寄ってきて、スンスンと私の臭いを嗅ぎ始めた。
一方私はと言うと、あまりの驚きにその場から動けず、ポカンと立ちすくみ、されるがままとなっていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



そして現在へと至る。

「…私に構って欲しいの…?」

「ガルゥ!」

大きな虎に話しかけると、虎は私の言葉を理解したように吠える。
…って言うか、あんまり突然で気がつかなかったけど、まさかこの動物…この周りになってる果物…漫画のトリコに出てくるような…まさかトリップ?
そう思うが、それはないない!と全身全霊こめてその考えを頭から追い出す。

「でも…」

トリップじゃないとしたらこれはどう説明すればいいの?
一瞬瞬きしただけで家や庭が消え、森の中にたたずんでいる。
そして挙句には大きな虎に懐かれる。
これはどう説明したらいいわけ?
またも頭が混乱している私の耳に、女の子の声が響いた。

「!? 人が居るの!?」

「ガゥ」

私の人に会いたいという気持ちが虎に伝わったのか、虎が頭を低くする。

「乗れ…ってこと?」

「ガゥゥ」

私はそんなトラの姿に目を伏せて笑顔のような表情を浮かべた。

「ありがとう。そうだ、しばらく私といる?私、一人だから君が居てくれたら嬉しいな」

「ガゥ!」

虎はさっきまで下げていた頭を上げ、私の顔へ擦り寄ってくる。
おそらくさっきのは固定の返事なのだろう。

「なら、名前が必要だね…。そうだな…【白夜】なんてどう?私が前に飼ってた猫の名前なの」

「ガルル」

嬉しそうに私の手の下に頭を持ってきて、撫でてくれといわんばかりに頭をすり寄せる。

「白夜、よろしくね!それじゃ、さっきの声の主の所に行こうか」

「ガゥッ」

白夜は私が乗りやすいように体を伏せてくれたので、私は自前の運動神経を生かして飛び乗った。

…今思ったら“融合動物”なんて沢山見てきたじゃない。
人の手によって融合された可哀想な動物達。
見てるだけで心苦しくなるような光景…。
己の念能力を試したいがために動物を混ぜて遊ぶ極悪非道な奴が生み出した悲劇の動物達。…思い出しただけで吐き気がする。

「ガルル」

そんな私の思考を白夜の声が取っ払った。

「どうしたの?白夜」

先ほどまで走っていた白夜が静止した事に頭をかしげていると、白夜の足元に一人の女の子が倒れているのが目に入った。

「!?」

きっとさっきの声の子だ!
って、この子リンちゃんじゃん!!
まさかのキャラクターと遭遇ですか…。
とりあえず白夜から飛び降りて脈と呼吸を見る。
どうやら気を失っているだけらしい。
体の傷からして獣に襲われたのだろうか…?

「ッ…」

ジッと顔色を伺っていると、リンちゃんが少し顔を歪め、目をうっすらと開けた。
リンちゃんを少し警戒したのだろうか、白夜が私の横でジッとリンちゃんの方を見ている。

「ガル…」

「大丈夫だよ、心配ない。それより、白夜はそこら辺に生ってる果物を少し取ってきてくれる?私はこの子の容態見るから。頼んだよ?」

「ガルル!」

白夜は了解の意を示し、森の中へ姿を消した。

「…だれ?」

白夜を見送っていると、リンちゃんが気がついたのか身を起こしながらこっちを見ていた。

「私はミズキ。声がしたから来て見たら貴方が倒れてたの。大丈夫…?今白夜が果物取りに行ってるんだけど、食べられそうだったら食べてね」

「ウチはリンだし!ミズキちゃんって呼んでいい?」

「いいよ、じゃあ、私もリンちゃんって呼ぶね。なんでこんなところにいるの?」

「ウチ的にはこんな所にミズキちゃんがいる方が気になるし!ここ、立ち入り危険区域だし!」

ハキハキと言葉を口にするリンちゃん。
どうやら怪我は平気そうだし、よかった。
って…。

「え、ここ立ち入り危険区域なの!?」

「知らなかったし?」

「うん。…まずは私がここにいる事になった理由を説明するね?」●●
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