ヴァンパイア騎士

□冬の一時
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「あ、枢…。寒いよー…」

「…瑞樹、呼んでる人とくっついている人が違うよ」




あ日冬の夕方。
授業のないナイトクラスは、暖炉のある一階のロビーに集まっていた。

普段は集まることなどないのだが、この日は珍しく雪が降っていたため、よく見えるこのロビーに集まったのだろう。

一番についたのは瑞樹で、たまには暖炉の火で温まりたいと思い来たが、火がついていなかったため、通りかかった架院に火をつけてもらい、ついでに体温の高い架院に抱き着いていたのだ。

普段なら枢以外に抱き着くことはないのだが、寒い時だけは別で、体温の高い人に引っ付く。

そんなところへやってきたのは、玖蘭、友香、千里だった。

玖蘭は架院に引っ付いている瑞樹を見て、毎年のことなのであからさまに怒りはしないものの、顔を引きつらせて声を掛ける。

抱き着かれている側の架院はというと、顔を引きつらせて怒るのを我慢している玖蘭を見て焦り、瑞樹を離そうとする…が、瑞樹は寒いらしく、架院から離れようとしない。




「瑞樹、君が抱き着いていいのは僕。架院だって迷惑だろう?ねぇ…?」



今度はあからさまに離れろと言わんばかりの雰囲気で架院に話しかけ、何とか瑞樹を手の内に収めようとする。



「…だぁって…。暁温かいんだもん…」



いつものように言い訳をする瑞樹に、玖蘭はふっと笑って、ポケットからいくつかカイロを取り出すと、「毎回そうやってほかの人に抱き着いている君に何の対処もしないと思った?ほら、今なら温かいからおいで」と言った。

玖蘭が温かいと分かった瑞樹は、架院からそっと離れて玖蘭に抱き着き、ぬくもりに触れる。



「ん…あったかい…。枢、いつもカイロ持ってればいいのに…」

「瑞樹がそういうなら毎日持つよ」

「じゃあ明日もくっ付いててもいい?」

「瑞樹ならいつでも歓迎だよ。だから、ほかの人には抱き着かないでね?」



玖蘭は、さっきまで持っていたカイロをポケットにしまい、架院から離れて抱き着いてきた瑞樹を強く抱きしめながら言った。

瑞樹はというと、そのまま頷き、玖蘭の温かさと暖炉の温かさに挟まれて温まり、架院はやっと離れた瑞樹にほっと胸をなでおろす。



「…友香、寒い…。ぎゅってしていい…?」

「ちょ、千里!?///」



リア充している玖蘭と瑞樹をよそ眼に、暖炉の温かさに触れて眠気の増した支葵は、若干の寒さを訴えると、有無を言わさず友香に抱き着く。

聞いたくせに答えを聞かない支葵への驚きと人前で抱き着かれたことに対しての羞恥心で友香はどうしていいかわからず硬直していると、横から瑞樹の「支葵友香ー!」などの茶々を入れてくる。



「うっさい瑞樹!!///それを言うならお前は玖蘭瑞樹だろ、ばーか!!」

「あー…。それは…ねぇ?置いておこうよ」

「置いとくなッ!」

「いいね、玖蘭瑞樹」

「…ほら、支葵友香、そこのソファーに座ったら?旦那さんが寝そうだよー」



支葵友香と言われてカッと赤くなる友香に比べて、瑞樹は赤くなりそうな顔を玖蘭で隠して、冷静を纏って返事をする。

玖蘭はそんな二人の会話を聞いて、玖蘭瑞樹もいいなと頷くが、瑞樹によって区切られた。



「あれ、みんなそろって何して…って、あッ!!」

「…、英」



ふと現れたのは藍堂で、ロビーを通りかかったところで玖蘭に寄り添う瑞樹を見て声を上げた。
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