うたぷり
□お風呂上りは髪を拭いて:一十木音也
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夏も中頃。
一ノ瀬トキヤの弟である水月は、一十木とトキヤの部屋へ泊りに来ていた。
兄であるトキヤは仕事が入っているらしく、帰るのはおそらく深夜だろう。
「音くん、シャワーありがとう」
「ううん、全然いいよ!(うわ、お風呂上りの水月って…なんか…///)」
ガチャリと浴室の扉を開けて出てきた水月は、半渇きの髪にいつもの寝巻であるTシャツとズボンを着用をしており、上のTシャツはもともとだぼっとしたものを好むだけあって少し肩からずり落ちている。
そんな水月の姿を見て、水月に恋心を持つ一十木は若干妄想に走るが、すぐに思いを断ち切り「俺も入ってくるから、ちょっと待ってて」とその場を後にした。
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「ふぅ…。 あれ、水月?」
シャワーから上がった一十木は部屋に水月がいないことに気が付き、まだ乾かしてもいない髪とズボンしかはいていない状態で部屋の中をくまなく見て回る。
しかし、水月はどこにもおらず、首をひねるばかり。
そんな一十木の前にあったドアが、かちゃりと音を立てて開かれた。
「水月!!」
「へ? 音くん!?」
中へ入ってきたのはさきほどまで探していた人物で、瞬間、一十木は満面の笑みで水月へ抱きついた。
身長差的に14センチ差のある二人。
水月は完全に一十木の腕の中で、そんな状況に陥ったことによって水月はあることに気が付いた。
「ちょ、音くんなんで裸なの!?」
「え? ズボンはいてるよ?」
「上! Tシャツも着てなかったら裸と一緒!! もう…あ、髪も乾いてない。 っていうか、拭いてもないじゃん」
そう。
水月は一十木が服を着ていないことと、水月を探すのに気を取られていてまったく拭かれていない髪に気が付いた。
もちろん、今も髪からは水が滴っており、密着している水月の肩や足元を濡らしている。
今でさえこんななのだ、さっき動き回っていた時に水滴が落ちないわけがない。
水月がふと周りを見渡せば、そこら中に水滴が落ちていた。
「ああ〜…。 見事に濡れてる…。まあトキ兄のテリトリーは無事だから怒られることはないからいいか。 音くん、ちゃんと服着て髪乾かさないと風邪ひいちゃうよ?」
「だって…お風呂上がったら水月いなかったんだもん。 どこ行ってたの?」
「飲み物買いに自販機まで。 ほら、音くんソファーに座ってて。 タオル持ってくる」
部屋に散らばった水滴は主に一十木のスペースに落ちていたようで、少しの安心からため息を吐く水月。
それから一十木に注意を促すと、洗面台のほうへと姿を消して、タオルとドライヤーを持ってきた。