ヴァンパイア騎士
□冬の一時
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瑞樹に近づくなり「また枢様に抱き付いて…ッ」なんて言うが、瑞樹はしれっと「だって寒いし。英もまざる?」なんて言ってのける。
もちろん玖蘭はそんな案を却下したが…。
そんな中、友香がおもむろに「あの木の下にいるの、一条じゃないか?」なんて言い出し、全員がちらほらと雪のづる窓の外へと視線を向ける。
そこには確かに木に寄りかかって座っている一条らしき人影が見え、隣には原型は丸かったと思われる雪の塊が割れて転がっているのが見て取れた。
「…いや、何もないよ」
一条があんな馬鹿だと信じたくないのか、白銀の世界に浮かぶ唯一の色を無視し、何も見ていないと主張する玖蘭。
そんな玖蘭に、「いや、存在くらい認めてやれ」と友香がツッコミを入れる。
「…拓麻拾いに行かないとね…。あれは寒そうだし」
瑞樹がそういうのも、一条は外にいるくせにコートなどの羽織りものをしていないからである。
外は0度を下回る気温なので、当然寒いであろう。
「…藍堂、架院。ちょっとアレ拾ってきてくれるかな?」
見かねた玖蘭は、自分は瑞樹と離れたくないからと藍堂と架院に一条を拾いに行かせた。
戻ってきた二人の間で笑っている一条は、やはり寒かったのか、心なしかいつもより元気がないように思える。
そんな一条を暖炉の前にすわらせ、暖を取らせた。
「副寮長、なんであんなところにコートもなしでいたんですか?」
戻ってきた架院が誰しもが思う疑問を一条へぶつけると、一条はよくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに目を煌めかせて「梓葉ちゃんの為に雪だるまを作ってたんだ。せっかく雪が積もったんだし、楽しまなきゃだろ?」と言った。
「だからって、そんな恰好であんなところに居たら死んじゃうぞー」
瑞樹がケラケラと笑いながら言うと、「そんな軟じゃないから大丈夫だよ」なんて一条が返す…が、その様子は大丈夫そうではない。
暖をとってはいるものの、まだ手元は冷えていそうだ。
「ところで、梓葉ちゃんは?」
ロビーを見回した一条は、皆いる中で梓葉がいないことに首を傾げた。
そんな一条に、友香は「まだ寝てるよ。起こししに行くなら瑞樹から合鍵もらえば?」と言うが、一条は頬を少し上気させ、「あああ、梓葉ちゃんの部屋へ起こしに行くなんて…!」と、何を想像…もとい妄想したのか、あわあわしている。
「…拓麻気持ち悪い…」
そんな慣れないものを見た瑞樹がポソリと呟く。
「…瑞樹さん、それ…思っても言っちゃダメ…」
呟いた瑞樹に珍しく支葵が指摘する。
どうやらいつの間にか夢から醒めていたようだ。
指摘はしても一条へのフォローはないのだが、そもそもこの会話自体未だ妄想をしている一条には届いていない。
結局梓葉を起こしに行ったのは友香と、それについていった支葵で、午後7時頃ホールには寮生全員が揃った。
「…勢ぞろいだけど、どうしたの?」