夢の小部屋
□謎の小部屋。
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太郎は、組対五課の一人である。
「課長!資料これでいいですか?」
目の前にいる人は、角田課長。
わかると思うが太郎の上司だ。
「あ、わりぃね、雑用頼んじゃって…。ん、おっけー。ありがと!」
角田は、太郎の渡した資料に、さっと目を通し提出用のファイルにしまった。
「あ。」
「?…どうしたんですか、角田課長。」
「コーヒー…飲み干しちゃった。ちょっと、田中。特命行って、貰ってきてくんない?」
「はあ…。わかりました。」
すまん!と片手をあげて角田はお礼を言った。
チラリと角田の可愛いパンダのコーヒーカップに目をやると、確かにそこは空だった。
太郎は、コーヒーカップを手に取ると、きびきびと特命係に歩いていった。
「失礼します。…お二人ともお暇ですか?」
部屋に入ると、しっとりとした雰囲気で本を読む杉下と、じっとテレビを見つめていた亀山がこちらを向いた。
「あれ、今日は角田課長じゃないんだね。あ、コーヒーならそこにあるよ。」
「あ、どうも。」
太郎がここを訪れるのも珍しいことではない。
このように、角田にコーヒーを頼まれ取りに行くこともしばしばある。
しかし、少し前から太郎は気になっていたことがあった。
特命係は、日頃何をしているのか。
それが、最近の彼の悩みのたねであった。
しかし、彼は大木さんや小松さんのように、覗きにいくことなどなかったし、ましてや、特命の話に首を突っ込むこともなかった。
ただ、コーヒーをもらいにくるだけ。
それだけだったのだが。
「それにしても、田中さんは、五課の皆さんとは、あまり似つかない外見をしておられますねぇ。」
「は?…はあ、そうですかね?」
…図星だった。
太郎は、はっきりいって、あまり強そうには見えない。
組対五課には、がっしりと筋肉質な人が多いため、一緒に行動する度、太郎一人が浮いて見えてしまう。
そのかわり、と言ってはなんだが、顔は整っていた。
あまり、付き合うことはないが、それなりにモテて、バレンタインデーなどには、抱えるほどのチョコをもらう。
しかし、ガタイがよくないからといって、五課によくあるヤクザとの喧嘩の中で弱いわけではない。
むしろ強い方である。
特に太郎は足技が得意だった。
「そうだよねー。からだ弱そうだし…あんまり無理しちゃだめだよ?」
亀山は母親のように心配そうに話しかけた。
「おう。暇か?…田中と特命が話し込むなんて珍しいじゃん。何話してたのさ。」
中々帰ってこない太郎を角田は心配したのだろう。仕事を終え、特命の小部屋へと入り込んだ。
「いやぁ、田中ちゃんが身体弱そうなのに、五課って…現場の時とか大丈夫なのかなぁー?って思ったんすよ。」
「あ?何言ってんだお前ら。」
「「?」」
「こいつ、めっちゃ強いよ?」
この返答は、杉下も予想していなかったのだろう。驚くように目を丸くし、太郎を観察している。
「え。田中が…強い?…想像できない。」
「やはり、世の中は見た目で判断してはいけないということでしょうね。」
杉下は、一人で納得していた。
そんなことがあり、太郎と特命係はよく会話を交わすようになる。
しかし、現場で顔を合わせるなんてことは初めてだった。
「あれ?杉下さん。」
「おや、田中君ではないですか。」
「ホントだ!太郎じゃん!」
太郎を見つけた二人はすぐさま彼の元に駆け寄る。
「え?え?…もしかして、これから乗り込むの?」
「ええ。まあ。」
片手に持った令状を太郎は、ヒラヒラと見せ、乗り込むことを認めた。
「一人で?大丈夫なの?」
「いえ、後から数人来ますから。」
「しかし、奇遇ながら、僕たちと同じところに乗り込もうとしているんですねぇ?」
「え?こいつ、なんかやったんですか?」
そういって、親指で容疑者の巣を指す。
「いえ、まだあくまで推測の段階ですが。話を聞こうと思って来ました。」
「でも、太郎が連れてくってんなら、取調室で話聞こうかな。」
「…わかりました。」
「あ、それに、ちゃんとお手伝いしますし?」
亀山は悪戯っぽくニヘッと笑う。
「亀山君は強いですからねぇ。」
「あ、じゃあ、頼みます。」
三人は、とある事務所の中へと入っていった。
バコンッ!!!
と、気持ちが良いくらいの音をたて、ドアが前方に壊れる。
「なんだオメェ!何してくれてんだよゴルァ!!」
目の前にいかにもな男がヅカヅカと近づく。
それを見計らい、太郎は警察手帳を突きつけた。
「警察だ。ちょっと来てもらおうか?」
彼らは警察だと、わかった瞬間。容疑者達は攻撃を始めた。
あるものは、イスを投げつけ、あるものは鉄パイプを握りしめ、あるものは金属バットを…。
一斉に襲いかかる。
「うわ!増えてるし!」
亀山の言う通り、何処に隠れていたのか知らないが、続々と人が出てきた。
鉄パイプがこちらに向かって投げつけられ、太郎がそれを蹴り返し、投げた主の額にヒットさせた。
「うおおおおおおおお!!」
それを合図に亀山も喧嘩に加わる。
とうの太郎はというと、
「ウラァ!!!」
殴りかかってきた図体のデカイ男をヒラリと避け、
「刑事なめんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
そう言って、ズボンのポケットに突っ込んだ手を出さず、足だけで対処していた。