黒バス

□黒子に笑ってほしい無冠
2ページ/2ページ




   駆け抜けた


  誰よりも速く、誰よりも一番に君に会うために

 君は人間観察が得意だから、泣いたってことばれるかな?


 『小太郎くん!?大丈夫ですか!!??』なんて、誰よりもボロボロな君は心底心配してくれるんでしょ

 
 大丈夫、大丈夫だよ

 俺は強いからね 傷の治りだって早いのが自慢だったりするんだ 


 後少しで君の元へ行ける―――

 走りながら物思いに耽っていると赤を先頭にしたカラフルな集団が目に付いた


  「アイツら、が.....」


 本当は殴りたかった
 赤も、青も、黄も、緑も、紫も、テツヤの悲しみと俺たちの怒りを全部込めて殴りたかった

 それでも、ただでさえ影の薄い君が独り蹲って泣いてると思うと、
 余計にその影が薄くなると思うと、ゾッとした

 見えないなんて嫌だ、気付けないなんて嫌だ

 こんな奴らに構ってる暇などないのだ、テツヤが孤独に身を投じようとしているのだ



 一瞥と共に睨むことも忘れず、その集団の真横を通り過ぎた

 気付いたのは赤と緑  

 俺のなんかより何倍も強い眼光で睨み返してくる赤、でもコレくらいなら何の恐怖も感じない
 先刻の木吉ほどではないからだ

 それと打って変わって、緑は何かにはじかれるかのように此方を見やった
 聡い敏い緑 お前は気付いたのだろう?傍観することの罪の重さに

 もう一度だけ緑を見れば、酷く辛そうに顔を歪めていた
 それでもどこか戸惑いの含まれる目
 あぁ、分からないんだ――それでもいいさ、もう彼は此方に囲われるのだから


  「もう、少し.....もう少しでテツヤに」


 逸る気持ちともし拒絶されてしまったら、という感情が混ざり合って何とも言えない感覚に襲われる

 それでも君に会いたい 会って、あんまり会えなかったときのことをたくさん話すと決めているのだ
 きっと君は華奢な体を丸めてるから


 ほら、やっぱり

 視界に入った水色は小さく、小刻みに肩を震わせている
 予想していたのと全く一緒でどこかおかしいのと、どうしてもテツヤが泣いてる―――ということに漠然としない自分がいた
 それでも体は理解しているのか、しゃがんで、久しぶりにその柔らかな感触を楽しむかのよう淡い水色の髪の毛を優しく梳かす

 目いっぱいにためた涙を両方から一粒ずつ落としながら、
 突然のことに驚いたテツヤは恐る恐るといった感じで顔をあげた


  「テツヤ、久しぶり!」 


  「小太郎、くん.....??」


 もとより大きい瞳がさらに大きく見開かれる
 溜まっていた涙は全て零れたようだ
 そこには綺麗な澄んだ青空を連想させる水色だけが広がっている


  「どう、してここに.....」


  「あのね、テツヤ。俺迎えに来たんだ、テツヤのこと」


  「え、」


  「だから.....泣いて良いよ。今まで我慢してきたんでしょ?昔はさ、俺がテツヤに甘えてたから今度はテツヤが俺に甘える番じゃん!!」


  「ほら」なんて言って手を広げておいでよアピールをすれば、折角乾きつつあった双眸が再び潤い始めた
 ボロボロボロボロ、それはベタに空から零れ落ちる雨のようで――――

 綺麗と感じると同時に、あまりの苦しさに胸が締め付けられた

 泣かないで、笑って、空は笑顔でいなきゃ、他の皆も心配してしまうよ


 後ろから複数の足音が聞こえてくる
 皆もキセキの奴ら見たかな? それよりもこの状況をどう説明しようか......

 
  「テツヤ、顔あげて」


  「ぼ、く....僕.....!!」




  「テツヤ、弱音吐いてもいいんだぞ」


  「鉄平、くん」


  「あんまり、詰めすぎんな」


  「真くん」


  「そうよ?テッちゃんは相変わらず無理しすぎなのよ!」


  「玲央くん」


  「このあと、牛丼でも食いに行こう」


  「永吉くん.....」


 それぞれの顔を見ながら涙の量を増やすテツヤ
 
 実渕が根武谷に『アンタはそれしか考えられないの!?』と怒りながらも増加していく涙を見てオロオロしつつある

 花宮は不器用ながらにそっぽを向きながらも、その腕を掲げ頭を撫でる

 木吉は見えないのをいいことに、相当黒い笑顔でテツヤだけに聞こえないよう『キセキぶっ潰す』と呟いた 



  ねぇテツヤ?

  俺たちは君が大切で仕方がないんだ

  だからほら、まるで昔に戻ったかのように錯覚させる俺たちのやり取りを見ただけで僅かに笑みを零したその表情ですら愛しく、そして満たされる 


  「皆さん、ありがとうございます......」




   綺麗に、綺麗に、キラキラと微笑む君



   大事な宝物がこの手から零れ落ちないよう、静かに力を込めた俺






    ただその笑顔を守りたいから...........



    昔と今のこの光景を重ねて、誰よりも大きな声で言うんだ



        ―――――皆でバスケしよう!――――― って
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ