黒バス

□影に惚れた花宮さん
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  「あ゛??」


  「どうも、お久しぶりですね。『悪童』さん」



 目の前で何を考えているのか分からない空を映したかのような瞳には、自分が映っていた








  「で?お前なんであんなところにいたんだよ」


  必然的に向かい合わせの席に座り、とても幸せそうにバニラシェイクを飲むコイツは本当にあの『黒子テツヤ』なのだろうか?
表情の変化が乏しいと思っていた自分にとりあえず蹴りでもかましたい、などと場違いなこと思いながら問えばやはりあのクソ生意気なヤツだ、と実感せざるをえない返答をされる。


  「愚問ですね。人が本屋に行く目的など一つです、勿論僕も例外ではありません」


  「ごめんね黒子くん、言い方を間違えたよ。どんな内容の本を買ったのか気になってね」


  「気持ち悪い。みてくださいこの鳥肌。貴方のせいですよ?慰謝料としてバニラシェイク寄越せ」


  「ばぁか。わざとに決まってんだろーが」


 明らかに嫌悪感を露にした表情に、ほんの少しの優越感に浸る。
まず、なぜこいつと相席なのかとか、バニラシェイクを奢らなければいけないのかなどツッコミどころは満載だが、からかうのは非常に楽しい。
勿論、だからといってこいつの言うとおりにしてやるつもりは毛頭ない。


 「奢って欲しいんなら、仲良しごっこに付き合ってくれてるお前のところの先輩に頼め。木吉辺りなら喜んで奢るだろ」


  「ええ、木吉先輩は貴方と違ってとても後輩思いの方なので躊躇なく奢ってくれますね。」


  「でも、それでは意味がないと思いません?」続けられた言葉は大変意味の分からないもの。
不快でたまらないソレに「ふはっ、とうとう可笑しくなったか」とだけ返せば手にとってわかるほど大きなため息をつかれる。


  「お前、いい度胸してんな、」

 
  「それ、結構言われます。わかりませんか?大嫌いな貴方に大好きなバニラシェイクを買ってもらう.......なんともばかばかしくて、滑稽じゃありませんか」


  「そんな状況を心から楽しんでみたいんですよ」...........喧嘩を売られているのか?と思った俺はけっして間違っていないはずだ。
よろしい、売られたのなら潔く買ってやろう。むしろ今すぐにでもその顔を苦痛に歪めてやりたい。


  「携帯寄越せ」


  「はい?」


  「聞こえなかったのか?耳の悪い後輩をもって誠凛の奴らは大変だな」


 煽ってもなお、なかなか動こうとしない目の前のコイツの顔には『意味が分からない』と書かれている。
同じことをこのイイコちゃんの為に言ってやる必要など俺には皆無。
 
 となれば実力行使だろう。

戸惑いなく伸ばした腕は白くて細いもう一本の腕に遮られるがそんなの知ったことか。
最初から力でこの華奢な少年に勝ち目はないため、目的のものが入っているであろう鞄は安易に手中におさまった。


  「ちょっと!やめてください!!」


  「うるせぇ。他の客に迷惑だろうが」


 たった一言、自分ではなく他の見知らぬ奴らのことを持ち出せば静かになるあたり、やっぱりイイコちゃんかよなんて思ってみたりする俺はどこかおかしい。 おかしくて仕方がない。

それでも、お目当てのものを見つければそんな思考はどこかに飛んでった。


  「.......この国の法律をご存知ですか?花宮さん」


  「少なくとも、お前よりは知ってるだろうよ」 


 携帯を開けば犬の画像―――。
コイツにどこか似てるのはきっと気のせいなのだろう。


そんなことより、と本来の目的を思い出せば後は早いもので、ものの数秒で画面には半角英数字がならんだ。
そして迷わず『登録しますか?』という問いに『はい』と応える。


  「これで.......」 


  「いや、本当になにしてるんですか。吐け、今すぐ何をしているか吐け。さもさくばその花宮さんの象徴の麻呂眉引っこ抜きますよ?」


  「........お前こそ本当に黙っとけ」


 新規メールを作成して本文は白紙で送信。
俺の鞄の中から聞こえた、受信完了の音を聞いたであろうコイツからイグナイトをくらったのは追記しておく。


  「流石ゲス宮ですね」


  「ふはっ、褒め言葉をどうも」


  「いえ、褒めたつもりは勿論ありません。っていうか貴方頭いいのだからそれくらいわかっているでしょう」


  「えーえー分かっていますよ。国語以外ダメな黒子くん」


  「人のメール見るなオタマロ」


心中穏やかではないだろうコイツの相手はやはり面白い。
その澄ました顔を歪められるのだから当然だろう。



  「はぁ、もう疲れました。帰ります」


  「もう帰ってしまうの?残念だな......よかったら送らせてよ」


  「気持ち悪いを通り越して逆に清々しいですよ」


  「失礼なヤツだな」


  「今更でしょうに」


はぁ、と今日俺が聞いただけでも何度目かわからないため息と共に視界から水色が消える。
立ち上がったソイツは空のカップと鞄を手にして俺に背を向けた。


  「あ、メールは僕からするので花宮さんは待っててくださいね」

 
  「はぁ??」


  「安心してください。明日必ずしますから」



わけの分からない言葉に文句を言おうと顔を上げるが、すでに店内に影はいなかった――――――――――









 後日↓



  「花宮」
   

  「なんだよ」


  「お前さ、彼女でもできたのか?」


  「あぁ゛??何でだよ」   


  「いや、だってさっきから携帯持ってそわそわして......」


  「ふはっ、そんなものいるか、」




言葉の途中で鳴り響く着信音。部活が終わったこの時間にメールしてくるのは、昨日『メールは僕からする』と言ったアイツしかいない

どういった内容なのか、
なぜ今日に回さなければいけなかったのか、
 

  受信BOXを開けば――――――――






  『やっぱり悪童なんかとは違いますね』


という一言と、

木吉は満面の笑み、黒子はどこか優越感の表情でのツーショットの写真が添付されていた。

そしてその手にはバニラシェイク、反対のほうではピース。


  『快く買ってくれましたよ、バニラシェイクww』



コイツはメールに草を生やすようなヤツなのか、とかこの際どうでもいい。
俺が気になるのはさり気なく腰に回された、かつて潰したヤツの手だ...........




  「木吉のヤツ、腰に手なんか回しやがって......!!」


  「いや、確実にツッコミどころはそこじゃないだろう」



半ばあきれた瀬戸の声に気づかなかったのは俺のせいではない。


あえて言うのなら、頭も心もぐちゃぐちゃにかき乱していくこの影のせいだ。
 





  『何処のマジバだ』と、俺が返信するまで後数秒――――


  
  行ったそこで鉄心と影が仲良さそうに話してるのを見て、何故かモヤモヤするまで後数分――――



  ベッドの上で影とメールのやり取りをしていて『もしかして俺はコイツのことが.....』と燻っていた想いに気づくまで後――――――――――

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