黒バス

□いつかください
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 <原黒>



 
 好きです、の一言が言えないから自分なりの愛情表現をしてみた。
本当は素直に言ったほうがいいんだろうけど自分は彼からの第一印象が最悪だろうから、まずは大好きな彼のこと知ることから始めてみようって。


 
 「くーろこっ!」

雑多に人が行き交う中、すでに自分の中で馴染みつつあるその名前を呼んだ。
気づいた様子の水色が僅かに跳ねて、歩いている人ごみの中で立ち止まり驚いた表情でこちらを見やる。
私服の彼は暖かくなりつつもまだ寒さの抜けないという過ごしやすいのかにくいのか分からない微妙な中間に、薄い黄色のシャツに軽めの水色の長袖の上着、ラフなズボンときっちりとしすぎていないふらっと出かけるような格好だった。
昼の太陽に照らされている淡い水色は綺麗で、キラキラと光っているように見える。

 (綺麗、だなー...、)

思わず見とれて口の中のガムの味がなくなっていることすら気づかないでいると、不思議そうにした黒子が駆け寄ってきた。あ、やべ、おかしな奴って思われたかな?

 「原、さん?どうしました?珍しいですね、」

目の前で立ち止まり下から顔を覗き込まれそうになる。見られる、自分の目が。それはまだ、
ばっと後ろに下がった。
はっとして黒子の方を見やればなにやら驚いた表情を浮かべている。それは当然の反応だが、俺は黒子に嫌われたくない一心で「あ、な、なんでもないけど、だから」と平静を取り繕うとする。

 「黒子、ごめん、嫌わないで」

やっとの思いで吐き出した言葉は震えていた。
黒子の様子が怒っているように見えて俯く。地面が見えて自分の靴も視界に入った。
嫌われたくない、黒子が大好きで、好きで。嫌われたら、と思うと胸のところがぎゅ、って苦しくなって、
何回も心の中で「嫌わないで」ばかり唱えているとクスクス、と心地よい声の笑い声が耳に入ってきた。え、っと顔をあげると口に手をあてて目を細め愛しそうに笑っている黒子。

 「え、あ、黒子?」

 「ふふ、いえ、ごめんなさい。僕も突然すみませんでした、原さんびっくりされたのでしょう?でも、嫌うなんてありませんよ」

「だって僕、原さんといるの好きですから」続く言葉はもっと嬉しいものだったけど、嫌うなんてない、という事実が酷く、酷く嬉しかった。不安で押しつぶされそうだった心が別の意味で苦しくなる。現金なんだよね、俺。
黒子の言葉一つで簡単に一喜一憂してしまうんだから。

彼が好きだって自覚してから色んな手を使って情報を集めた。俺は瀬戸や花宮みたいに頭よくないし古橋みたいに自分の感情をうまく隠すことも出来ない。ましてやザキみたいに何気なく気遣うことも。それでも好きだから、大好きだから自分なりに彼を愛してみた。
好きなものは好きになりたくって、ちょっと後を追ってどこに行くのか見たし、バニラシェイクも飲んでみた。
本は難しかったけど、元から甘いものが嫌いじゃない俺がバニラシェイクを好きになるのは時間がかからなかった。霧崎の皆と出かけたとき飲んでたら花宮には「よくそんな甘ったるいもん飲めるな、ねぇわ」とか言われたし古橋は何か言いたそうにこっち見てた。
たぶん古橋は気付いてるんだろうなー、って思う。
前黒子と偶々会った風に見せかけてそのあと一緒に行動してるところ見られていたし、だったらって俺自身吹っ切れて相談をしたりもしたから。
まぁ、興味ないな自分でどうにかしろ、って呆気なく無視されたんだけど。

 「ねぇ、黒子これから暇?」

このチャンスを逃したらいけないと逸る気持ちを抑えて少し遠慮気味に問いかけた。すると悩む様子もなく「ええ」と言葉が返ってくる。
よっしゃ、小さなガッツポーズを残して向かい合っていた立ち位置から右隣へと移動して黒子の右手を自分の左手で包み込んだ。

 「俺と出かけない?いい店知ってんだよね!」

握りつぶすことのないように力を込めた。体温が高いとはいえない黒子の手を自分の熱で温めるように、指を絡める。勢いあまって恋人つなぎなんてしちゃったけど、大丈夫だよね?

 「是非、お供させてください」

零れた笑みに「当然!」と返して歩き出した。
通り過ぎる人が時々こっちを見たりするけど黒子も関係ない、とばかりにちょっと悪戯っぽく笑って手を握り返してくれる。
仲良くなりたいことから誠凛まで行って話しかけた。最初は警戒されていたけど通いつめてガムをあげたり話していくうちに黒子は懐いてくれて、そのときに刷り込ませたこと。
それでもこうやってしてくれるのは嬉しい、ただそれだけで。


甘い、甘い、蜂蜜よりも甘ったるいものが溢れ出して心を満たす。
俺の愛はちょっと歪んじゃってるかもしれないけど、仕方ないですね、って優しい黒子なら笑ってくれる気がするんだ。
閉じ込めたりはしないよ?だって俺は黒子が自由に飛び回ってるのが好き。籠の中でじっとしてるんじゃなくて、常に飛び立とうって、昨日より今日、今日より明日長く高く遠くまで飛ぼうって思ってる黒子が。

だからその飛ぶ姿を見とくことにした、見て、愛でて、偶には俺のところで休んでほしいって。
君が無防備に羽を休めるところは俺の側であって欲しい。誠凛に向けられる仲間内での友愛でもなく、キセキへの焦がれるような憧れでもなく、花宮とかへの嫌悪じゃない、唯一もらえる愛情。

 「ねぇ黒子、いつか頂戴ね?」

ガムを膨らませながら口の端を持ち上げれば意味が分からない、と訝しげな顔をされる。
今はいいよ、と付け加えればなんのことですかって返ってきたけどそれすらも「べっつにー?」ってあやふやにした。
全部考えてることも想いも伝わればいいのにね。まぁ、それはないことだから仕方ないのだけれど。



 「なぁなぁ花宮!土曜って練習あんの?」

 「あ?何だ?土曜はねぇけ「まじ!?よかったー!」

 「おいコラ!てめぇ被せんじゃね「原、これ俺の専売特許なんだけど、」

 「健太郎、お前まで....!」

目の前で愉快なやり取りを始めた二人をおいて確か土曜は誠凛も部活なかったよな、なんて思いながら部室に着替えに入る。すでに着替え始めていた古橋と目があうと深いため息つかれたけど知らねぇし。


「おっさきー!」とだけ残して自分の荷物を持って外に出ると、やけに綺麗な青空が広がっていた。
濃い青空より澄んだ、透明って言葉が似合うようなそれ。その色は想い人である黒子を連想させて、手を伸ばして摑むようにぎゅっと拳を作った。
いつかその甘ったるすぎる君のその存在が手に入るって、自分を恋愛対象として黒子が認識してくれるのを夢見ながら今日も駆け足で黒子を探し出すんだ。


                        -END-

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