黒バス

□重い愛の形
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 <高黒桃>



    黒子テツヤは愛されている。

誰に、と限定するものではなく。等しく、平等に、様々な愛され方をしているのだ。

例えばそれは今の仲間達からの友愛、他校からの尊敬、ある学校からの一つの執着、かつての仲間キセキ達からの愛情など、「愛されている」と形容してもいいのかと疑問に思うものもあるかもしれないが、それは確かに感情であり「無関心」とは違う。
まぁ、愛されていると言っても受け取り方は人それぞれだ。
至極当然のことを言えば感性は皆異なる。捉え方が違う、でも同等の意味を持つだろう。考え方には一般常識所謂平均というものがあるがそれを逸する人は少なくないだろう。
言うなれば「浮気」の線引き。手を繋いだら、口付けを交わしたら、愛を囁いたら、一線を越えたらとあげられる。だが勿論これだけではない。もっと細かく言えるし逆に極端に「したのか」「してないのか」で考える人もいるはずだ。
それはその相手への執着心で分かれることだろう。

しかし、これはあくまでも交際という名の関係であることが前提条件で使われることが多い。
一般的な考え方であれば「浮気」とはそうだろう。つまるところ付き合っている相手がいない黒子が「浮気者」と罵られる意味などどこにもないということだ。


だが今現在黒子は、自分の家のポストに入っていた綺麗な字で書かれた「浮気者」という言葉を見て盛大にため息をついていた。

 「また、ですか....」

彼は俗に言うストーカーの被害にあっている。 姿形見えず、性別も分からない加害者に少しばかり怯えた生活を送っているのだ。
普通ならば友人へ相談、と言いたいところだが黒子はそんなことは端から考えていなかった。
この自分の行動を逐一ずらずらと書き綴った手紙。そこへ投げ出される単語や文章の筆跡に見覚えがあったのだ。
この字は.....いや、思い出せない。だけど自分は必ずこの字をどこかで見たことがある。
確信している黒子は、その持ち前の優しさから「犯人がそのうち名乗り出るか、もしくはこの行為が終われば」と考えていた。他者から見れば甘い考え、それでも黒子はそれを正しいと思い変えることは決してなかったのだ。
それともう一つ。
この行為をしているのは自分から距離が近い人である、ということ。
書かれている内容は黒子の日々の過ごし方、とその日誰と多く話したかだ。休日であれば練習だったか休みだったか、休みの場合は勿論どこに行った家で何をしていた、と丁寧に事細かに書かれている。だからといってこの手紙が毎日届けられるわけではなかった。多くて週に4回、少なくて2回といったところ。4回の場合は大方その前日の内容が記載されているが、2回の時は大体1週間の内容がまとめてある。3日分と4日分にわかれているのだ。
ストーカーをする側にも都合というものがあるのだろう、と黒子は始めは自分が被害にあっていることを異常だと思いながらも今までの影が薄い経験からあまり実感できないでいた。
だがそこまで無頓着なわけではない。黒子は彼なりに考え、スケジュールや他人との関係性そしてなによりも影の薄い自分の存在を知っている、ということから少なくとも自身の周りの人間であるという答えを自分の中に導き出していた。

 「まぁ今実害があるわけではないですし、なにより僕なんかのストーカーをしたところでなんの利益もありません。そのうちこの人も諦めますね、」

黒子はそのままポストに入っていた手紙を朝刊とともに家に持ち入った、すでに日課となっていることだ。

 家のすぐ近くの電柱でもたれながら自分を見ている人物がいるのにも気付かずに、



 *   *   *   *



 「テッちゃんは今日も無事起床、新聞と手紙回収っと。ふーん、今日はパジャマなんだ。昨日半ズボンで寒そうだったなー震えてたし、」

清々しい朝、まだ冬の余韻が残るゆるすぎない冷気の中で秀徳1年・高尾和成は手にすっぽりとはまるメモ帳に口に出したことをそのまま書き綴っていた。その前のページを開けば黒子テツヤの朝の行動が全て書かれている。
家からでてきた時間、その日の服装、遠目から見た体調等日によって違えど大方は書き込んでいた。細かいことなら寝癖のはね具合、起床してから出てくるまでの時間と一目見て自身の目を疑うものもある。否、まずここに高尾和成が存在し黒子の行動を全て書き込んでいる時点でおかしい。
彼は黒子と同学年で互いに存在を確認しあっていると言えど同じ学校ではない。なのになぜここに、そして黒子が高尾に自身の家を教えたことは一度たりともないのだ。

 「んー、と。あぁ桃ちゃんに報告の電話っと、」

周囲から羨ましがられるようなその整った容姿の口元を歪に歪める。ニヤリ、とどこか恍惚とした笑みを零し黒子の家を一瞥した後高尾は自身の服についているポケットを弄り携帯を取り出した。手馴れた様子で操作をし、戸惑いなくひとつの番号を選び着信する。一回目の呼び出しが終わりもしないうちに相手は出た。
 
 「おはよー!今日はどうだった?」

早朝にも関わらずやけにハイテンションな声色に高尾は別段驚くこともなく、住宅地ということを配慮してからか逸る気持ちも声も少し抑え気味に先ほど自分がメモした黒子の様子をすべて明瞭に伝える。相手は相槌を打つこともなくただ淡々とそれを聞き取り、高尾の「で、それくらいかな!」という言葉とともに話し出す。

 「そっか、テツくん今日はちゃんとパジャマだったんだね?それならよかった!テツくんたらしっかりしてるところもあるけど案外抜けてるところとかあるし。中学の合宿の時だって自分の布団から出てミドリンのところに行って寝てたんだー、しかもちょっと服捲れてお腹出してる状態で!そんなテツくんも可愛かったんだけどどうせなら私の布団にきてほしいよね?まぁ部屋が違うからそんなことあるはずないんだけどさ。ミドリン起きてから奇声あげかけたけどテツくんの腹チラ見て顔真っ赤にしたと思ったらまた布団にもぐって...、羨ましすぎてその日のミドリンのドリンクに薬混ぜちゃった。まぁそれくらいいいと思うんだ。本当は眼鏡割ったりその記憶消したかったんだけど流石にばれちゃうし赤司くんの目もあったから。ああ、でもやっぱずるいな男の子はテツくんと同じ部屋になる可能性あるから。私テツくんとだったら過ちくらいあってもいいの、むしろあった方が都合上いいのにさ!それに、」

 「はいはい、桃ちゃんストップな」

放っておいたらそのままいつまでも語りだしそうな電話の相手、桃井に高尾が制止の言葉をかける。言葉を文章で表記すれば句読点は入るものそれはノンブレス状態に限りなく近かった。
桃井の「あ、ごめんごめん」という明るい謝罪に僅かに苦笑を漏らす彼だがその目は笑っておらず嫌に薄暗い光を灯している。心が穏やかでないことは、高尾のその明るく気さくなところを知っている者ならば一目瞭然だ。

 「高尾くん怒ってるでしょ、」

くすり、と電話越しに桃井が笑った。彼女の怖いところはこれ。人の心、心理状況を読むのがうまいそして誘導するのも。綺麗に偽って隠して仮面をつけて平静を装ったとしても言動や雰囲気から感じ取ってしまう。口元に貼り付けていた笑みを高尾は捨て去り、真っ直ぐに唇を結び感情を表した。
冷め切った無表情、先ほどまでは暗くとも光を灯していた目はただ虚空を見つめ視線を少し彷徨わせてから心底憎たらしいと憎悪を込めて純粋な嫌悪感を見せる。

 「怒ってなんかないよ?ただ真ちゃん...緑間羨ましいなーって、アイツそんなことあったんだ」


――――――――
これも未完成です!

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