小説(長編)

□入学式早々…
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「待ってよ〜」

大股で歩いていると、
さっきの男が駆けてきた。


数十分後ー


506号室の前にいた。


ドアは全てオールロックで、
Sクラスの部屋はひとりひとりに
パスカードが渡されている。

だが、S5の生徒だけには
どこの部屋でも通る設定だ。
こんなの馬鹿げている。

「早くあけろ」

後ろの男に催促し、鍵を開けさせる。
ピーっという機会音のあとに、
ガチャっとドアがあいた。

中には…

「や…めて」

「ここには誰も来ない。」

大男に押し倒されている百合。

「あちゃ〜」

男が言ったのが早いか
僕が足を踏み出したのが早いか。

男に蹴りかかった。
だが、すんでのところで
足を掴まれ、バランスを
崩しそうになる。

「ふざけたことをしてくれるな。
百合、なにもされてないか?」

不安定な体制のまま話しかける。

百合はコクンと頷いた。


「だぁから駄目っていったじゃん。
静のアホ!変態!」

「タイミングがいいな。
誠、予定通りだ。」

その言葉を聞くと、誠とやらは
百合に歩み寄り、肩を抱いて
スタスタと出ていった。

僕が呆気にとられていると、
掴まれていた足を振り払われ
見事に180度回転して
その場に倒れた。

間髪入れず静とやらが
覆い被さってきた。

「俺たちの本当の狙いはこうだ。
どうだ?バカされた気分は。」


「なるほどな。たしかに。」


僕は敢えて百合には触れなかった。
今そのことを考えれば、
相手の思うつぼだ。

「それで?なにが望みだ」

静は満足げに鼻を鳴らし、

「俺のものになれ。全て、だ」

僕は笑った。

「その方が馬鹿げているな。
お前のものになる?笑わせるな」

動揺していた。
こいつは彼奴に似ているから。
どことなく似ていた。
ただそれだけで動揺していた。

「強情な猫、とでもいうか。
まあ、強気なペットを躾るのも
飼い主の役目か?」

何をいっている。
僕がペット?


「はじめましてのキスといくか」

だんだんと静の顔が近づく。
何故か嫌な気持ちにはならなかった。

ゆっくりと近づく互の唇。
鼻と鼻が触れ合うほどの距離。

「怖いか?椿」

自然と目を細めていた。
あの頃を思いだしていた。
まだ、2人だけだった、あの頃を…

お互いの唇が重なり合った。


ぼくは泣いていた。
意味もなく。





ねえ、幸せにしてよ。
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