短編

□後悔なんて、
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妾が奴良組を出て早三年、
鯉伴様の為、
奴良組の為なら
妾がどうなろうと
構わない

鯉伴様に嫌われようと、
――――構わない、
それは妾が鯉伴様を
裏切ったから、
勝手に奴良組を
抜け出したから、
それは当然の報いだもの


貴方に綺麗といってもらった長い黒髪も、貴方の思い出から妾の存在が消えることを願い切り捨てた

もう、未練なんてない、
貴方を愛し続けて死ぬ、
貴方が幸せになるのを心から望んでいます

もう決めたのだ、
後悔なんてしていない。


江戸から遠く離れた
妖の宿場町にいたとき
よく奴良組の話を耳にした、


「奴良組の―――がな、――らしい。」

「へぇ、――は奴良組の―――に負けちまったのか」

「奴良組の――はすごい!」
「――って奴がさあ、」



みんなの話を
聞きたくて、聞きたくて、でも怖くて聞けなくて、

妾はもう、「裏切者」。
自分は関係ないのだと
心に言い聞かせて、

畏の羽織を見かける度に
怖くなって逃げた。

もう戻れない。
後悔なんてしていない、



「ちょいとすみません、」

「はい?」

「人を探しているのですが
この人を知りませんか?
長い黒髪に黒目がちの目が特徴らしいんですが…」

――ハッとした
妾と鯉伴様が結納したばかりの頃描いてもらった墨絵だった

「い、いいえ、
知りません、、」

「そうですか…
すみませんねぇ、
失礼します…」


特徴の長い黒髪も
バッサリ切ってしまった、

私をはっきり覚えてなければ、私だと気づく人はもういないだろう

ここまで探しにきてるのね


「鯉伴様、ダメじゃないですか、」

ボソッと空に呟いた

「鯉伴様が妾を忘れることは妾の願いなんですよ、」
ボロボロと目から何かが溢れてくる

「鯉はん"様が幸せになること"は妾のしあ"わせな"ん"ですよ"??」

それが涙だと気づく時はもう遅かった

「り"はん"さ"ま"あ"ああぁ"あぁ"ああ"あああ"あ"ぁぁっっ ああ"あ"ああ"ぁあ"あぁあぁあ"あ"ああぁ"ぁ"ああっ」


もう二度と、
貴方に会いません

貴方を傷つけている事も
自覚しています。

妾には子供ができません
奴良組、組自体には跡継ぎが産めない妾は要らないものなのです

来世はちゃんと子が成せる体に生まれてきます。
本当です。

だから今世はちゃんと好い人見つけて幸せになってください。


だから来世は
来世は―――

もう一度、妾を見つけて、妾に名前をつけてくれませんか??

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