S-novel

□恋心発芽記録。
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『恋心発芽記録。』








「……………ぅ…ん。」





アレ………どうしてだろう?



何だかひどく身体が重たくて、頭が痛い。
胸や胃の辺りにもムカつきを感じる。



そんな状態でうっすらと目を開けると、目に映ったものは見慣れない部屋の見慣れない天井で……。



(……………此処、は……?)



痛む頭を押さえて上体を起こし、辺りを見渡すと―――。





「………ぅ…ん。」


「っ!?」



自分以外の誰かの声が聴こえて驚いた私は、声の聴こえた方へと視線を向けた。



私の視線の先に映った人物は―――。



「……………な…なると……くん……?」



見慣れないベッドの下―――フローリングに寝転んでいる人物は、ヒナタのバイト先の先輩にあたる人目を引く金色の髪と綺麗な蒼色の瞳を持つ、うずまきナルトだった。



「……………ど、どうして、ナルトくんが……?」


「んん〜〜………あっ、起きたかってば、ヒナタ?」


「えっ?あっ……う、うん?」



寝惚け眼を擦りながら、上半身を起こしたナルトは、大きな欠伸を1つしてからヒナタの方へと身体を向けた。



ヒナタは、今の状況を全くといっていい程飲み込めていなかったのだが、取り敢えず曖昧に頷いておいた。



「………ヒナタ、気分はどうだってばよ?」


「……………気分?」


「アレ、覚えてねーの?今日……いやもう昨日か……。つい数時間前にあった飲み会でのことなんだけど……。」


「飲み会?……………………あっ。」



ナルトに言われて漸く思い出したヒナタは、数時間前にあった飲み会での出来事を思い返した。





(そうだった……昨日は店長の気まぐれで、急に出勤していた人たち全員で飲み会に行こうって話になったんだよね……。そして、私は店長にお酒を進められて…………その後の記憶がない……?)



しかし、たとえ記憶がなくても、ヒナタは自分自身の身に何が起こったのかは大いに想像できた。



この激しい倦怠感と頭痛と胸のムカつきといった症状……そして、記憶がないことから察して、どうやら自分は“酔っ払う”という醜態を曝してしまったのだろうということに……。



それらを想像したヒナタは、羞恥心で頬を紅く染めるのだった。



「思い出したかってば?」


「ご、ごめんなさいっ。/////」


「何がだってばよ?つーか、ヒナタが謝る必要なんて全くねェだろ?」


「で、でもっ……。/////」


「でもじゃねーよ。寧ろ、オレの方こそごめんだってばよ。店長ってば、傍に座っている人に片っ端から酒を勧めて飲ませるのが好きみたいでさ……。場所変わってやれなくてごめんな。」


「う、ううんっ。///な、ナルトくんが謝ることじゃないものっ……。/////」



私よりも半年程先に勤めていたナルトは、既に店長の酒の席での対応を知っていたのだろう。



たった半年とはいえ先輩は先輩。



店長の酒の席での対応を知っていたのに、何も出来なかったことに対して、ナルトくんは少なからず罪悪感を覚えているようだった。



そんな彼のことを私は優しい人だな……と改めて思う。



私が今のバイト先に勤め始めた当初、慣れないことに戸惑っていたところをいつも何かと助けてくれて、面倒を見てくれたのはナルトくんだった。



私は今まであまり男の人と接する機会がなかったため、男の人が少し苦手だった。



(………でも、接してみるものだよね……。)



私はいつしか自分にないものを持っているナルトくんに憧れを抱くようになっていた―――。





「本当にナルトくんのせいじゃないから、気にしないで……。」


「あぁ〜……うん。あっ、忘れてた。店長から伝言があったんだってばよ。」


「伝言?」


「おうっ!『無理に飲ませてしまって悪かった。お詫びに、今日のバイトは休んでいい。』だってさ。」



ナルトから店長の伝言を聞いたヒナタは、脳裏に店長の顔を思い浮かんだ。



そして、店長の心遣いに感謝するものの、申し訳なさそうに呟いた。



「………そう……何だか、申し訳ないことをしてしまった気が……。」


「いやいやっ!!そんなに申し訳なさそうにする必要なんてねーってばよっ!!元はと言えば、ヒナタに無理に飲ませた店長が悪ぃんだからなっ!………でもさ、そうやって、何でも許しちまうところが、ヒナタらしいとこだよな〜……。」


「そ、そうかな?」


「あぁ、ぜってーそうだってばよっ!」



ニッシシシと太陽のように明るい笑顔を見せるナルトに、ヒナタも自然と嬉しくなって微笑んだ。





「とまぁそんなワケで、酔い潰れてしまったヒナタをどうするかって話になって、オレん家が店から一番近かったから、オレがヒナタの介抱することになったんだってばよ。」


「ご、ごめんなさい……。」


「だから、謝んなって言ってんだろ?別に、謝って欲しいワケじゃねーんだから……。まぁ……いくら事態が事態でも、女の子を部屋に連れ込むのは、ちーっとばかし気ぃ引けたんだけどさ……。」


「………?」


「わかんなくていいってばよ。………んで、どうなんだってばよ?」


「………えっ?」


「だーかーらーっ!!き・ぶ・んだってばよっ!!気持ち悪ぃとか、ムカムカするとかねーのかって、訊いてるんだってばよっ!!」



そこまでナルトに言われて、漸くヒナタは合点がいったようにナルトを見た。



「あ、あのっ……。///」


「あー、先に言っとくけど、ミョーな遠慮とかしねーで正直に言えよ?」


「………っ!」



ナルトに先手を打たれてしまったヒナタは、図星をつかれて言葉に詰まった。



「………その様子からして図星だったみてェだな。ほら、素直に言ってみろってばよ。」


「う、うん……。///そ、その……少し身体が重くて、頭痛もします。///………それと、胸の辺りにムカつきも感じます。///」


「そりゃ、そーだよな。喉も渇いただろ?取り敢えず、水持ってくっから、ヒナタは大人しく横になっといてくれってばよ。」


「う、うん……。///」



そう言って立ち上がり部屋を出て行くナルトの背中を見送ったヒナタは、何となく気になって部屋をキョロキョロと見渡した。



部屋の中を見渡して感じたことは、あまり物を置いていなく、必要最小限の物しか置いていない生活感の乏しい印象を受けた。



(………こんなものなのかな?)



今までのヒナタは、家族や親戚以外の男性と接する機会が極端になかった。



従って、同年代………というより、男性の部屋など入ったことも、況してや、見たこともなかったので、ナルトの部屋が一般的な男性の部屋であるのか判断し兼ねた。



ただ、ヒナタはこれが男の人の部屋なんだと思うほかなかった……。



そう……ここは男の人の部屋………オトコの………。





(お、男の人の部屋……っ!!!!??/////し、しかも、な、ななな、ナルトくんの部屋っっ!!!!??/////)





未だに酔いが覚めずに、ぼーっとしていたため、完全に思考力が鈍っていたヒナタは、漸くここがどこで誰の部屋であるのかを把握した。



でも、考えてみれば当たり前のことだ。



ナルト本人も“オレん家”と言っていたのだから、単純に考えてここはナルトの部屋だ。



そして、ナルトは男である。



つまりは、ここは男の人の部屋で―――。



(そういえば、ナルトくん……さっき、『女の子を部屋に連れ込むのは気が引けた』……って言っていた……よね?)



ヒナタは、自分が女であることを嫌でも自覚させられることになった。



(………つまり私は、ナルトくんに醜態を曝して迷惑をかけてしまった挙げ句、記憶もないまま連れて来られたとは言え、酔っ払って男の人の部屋に上がり込んで介抱されて、更にはそのままナルトくんのベッドで眠ってしまって、ベッドの持ち主であるナルトくんを床で眠らせてしまったってことに……っ!!?/////)



全ての現状を把握したヒナタは、申し訳なさと恥ずかしさのあまり、シーツをギュッと掴むことで必死に堪えていた。



しかし、これはシーツを掴むことで堪えられる程、軽いものではなく―――。





(………わ、私ったら、なんてことを……っ、私ったら……なんてフシダラな女なの……っ!/////)



ヒナタはただでさえ痛む頭を別の意味でも更に痛ませる結果となった。



そしてヒナタは、掛け布団で目元を覆い隠し顔を埋めるのだった。






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