中篇小説

□高校生活
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「先生」
「おー、琴平、おはよ」

職員室はいつもコーヒーの匂いがする。
机の上にはおせんべいとかクッキーとかあって、結構職員室って自由なんだな、と思ってしまう。
教室でお菓子食べているとたまに怒る先生もいるのに、少し不思議に思う。
でも、私にはあまり関係ないことだ。
お菓子を持ってくると、クラスメイトが寄ってくる。
あげるのはかまわないけど、お返しにあげるね、とかいって話が続くのがいやだ。
ありがとう、と言われるのも、言われ慣れてなくて何故か苦しくなる。
めんどくさいことを要因するようなものは始めから持ってこなければいいことだ。

「先生、申し込み用紙・・・」
「あ、ああーそっか、さんきゅー。」

渡した白紙の用紙に、鷹村は少し眉を寄せた。
もう高校3年だ。致し方ないことだ。今までのように、親は忙しいので、なんて言ってもう逃げれないだろうとは、なんとなくわかっていた。

「琴平、白紙だけど?」
「・・・・・・・」
「・・・親にみせたんか?」

優等生まがいを演じられるのも、ここまでだな、と少し胃が痛くなる。
フルフルと首を横に振れば、鷹村は下唇を突き出して低く唸って見せた。

「どーした?見せ忘れたんなら明日まで待ってやるから。ちゃんと書いてこいよ。」

見せ忘れる?
見せる相手もいないのに。
明日まで?
今日母さんや父さんに会えるわけない。

せっかく優等生まがい演じてきたけど、返って裏目に出たかもしれない。
鷹村のとなりの先生とか、こっちを見てるんじゃないかと、脳裏によぎる。

(ああ、どうしよう)

考えちゃいけない言葉が消しても消しても浮かんでくる。
強い振りして、感情とか薄そうな振りして、本当は誰よりも泣き虫だって、自分が一番知っている。

(見捨てられる)

「・・・っあ・・・」
「は?え、琴平?」

やばい。
やばいやばいやばい。

ポロ、っと零れた涙が、頬を濡らして止まない。鷹村が慌てた感じで自分を覗きこんでいる。

「お、おい、俺怒ってねーから、泣くなよ、な?」
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