オリジナル小説
□1話、捜し人と古い日記
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1.捜し人と古い日記
「資料を。」
白衣の手がためらいのない動作で受け取った1枚の紙を厚手の、さも厳重そうな金庫の中へと滑り込ませる。
カチャカチャとダイヤルを回し、幾重の鍵をかけてから、白衣の男はゆっくりと、立ち上がった。
・ 佐藤憂衣(サトウ ユイ)
・ 女
・ 17歳
・ 金髪
・ 髪は肩にかかる程度
・ ジーパンに黒い長袖T−シャツ
金庫の中にはたった2枚の紙がある。
一番上に重ねられたその紙に打ち込まれた箇条書きの一人の女の情報。
・ 三上保徳(ミカミ ヤスノリ)
・ 17歳
・ 男
・ 黒髪(襟足が肩にかかる程度)
・ 両耳にピアス
・ 黒いタンクトップにジーパン
・ 処理機NO.10
そして、その紙が隠してしまったその下の紙には一人の男の情報が。
そこは日本政府の毀損処理施設。
秘密を知ってしまった一人の男と、男を捜して秘密を暴いた一人の女の別世界への旅立ちの地である。
「―――・・・ああ…しまった。」
「どうした?」
立ち上がった白衣の男にパソコンの画面に向かっていたもう一人が目をやる。
「あの女に、機具をつけそこねた」
「ああ、こちらの世界の?」
「ああ。惜しいことをした。」
クスクスと声を零す同僚に白衣の男は肩を竦めて問う。
「いや・・・酷い人間だな、お前も」
白衣の男はさも心外だと、言わんばかりに、しかし場にそぐわぬ無邪気な笑みでこう言った。
「みんなのためだ。」
――――――――――――――――――
(ここは、どこ…?)
憂衣は持っていたはずの紙切れがない事に気付く。
(ああ、頭がくらくらする。)
自分は何をしていた?
ああ、そうだ。
保徳を、保徳を捜していた。
私の恋人を。
彼の古い日記のようなものの最後のページに書き殴られた住所をたどり。
たどりついたのは日本政府運営の施設。
そして、知ったのだ。
彼が、地球にいないことを。
毀損処理施設で、保徳が。
秘密を知った彼が。
この、世界、へ、飛ばされた、こと、を。
(この世界・・・?)
考えてみて、感じる草葉の匂いにふっと、下を向く。
自分は裸足だ。
顔をあげたそこは、西洋の映画に出てきそうな、古びた洋風の町並み。
しかし、何の音もしなかった。
人の声がしない。
そして、ここが、ソノ世界ナラバ、自分はその理由を知っている。
この町の人が皆、死んだわけを。
「おい…お前、何者だ。」
呼ばれた低いテノールにはじかれて顔を挙げれば、褐色肌の男が立っている。
「あ・・・・・」
声を発す前に、体がピシリ、ときしんだ。
まだ、この世界に体が順応していないようだ。
だって、この世界はまったく違うのだ。
あちらには、なかったものしか、ない。
ゆらりと歪む視界に、憂衣は慌てたように走り寄ってくる男を捕らえた。
(―――どうやら、いい人そう)
プツン、と意識は途絶えた。
(続く)