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□タワー
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がくんっ。
不意に、身体に思い切り重力がかかる。
同時に、手首に痛みと違和感。それから……熱?
漆黒だった目の前が、光の束に移り変わる。
…綺麗だな、やっぱ。
そんなことを頭の隅で考えながら頭上を見上げれば、見慣れた金色が光った。
……え、なんで。
「……べる…せんぱい?」
「…っに…してんだよクソガエル!」
よく聞き慣れた、しかしいつもより焦っている怒鳴り声。
そこで、はじめて我に返った。
鉄塔の中腹あたり。ベルフェゴールが、鉄骨にしがみついて、宙ぶらりん状態の自分の手を握っていた。
はじめて、今の今まで自分が死にそうになっていたことに気付く。
……やべ、高い。
「……あ、え、なんで」
「ンなことどうでもいーだろが…っ、そっち掴まれ、引き上げっから」
「あ、…はいー」
そうしてフランは、よいしょっと同じ鉄骨の上に立つ。
改めて向き合って、それからベルフェゴールをじっとりと睨んだ。
「…こんなとこで何してんですかー、センパイ」
「てめーが勝手に消えるから探しに来たんだろ!
やっと見つけたらこんな鉄塔だし、仕方ねーから登ろうと思ったら落ちてくるしよっ」
いまだに焦りが滲んでいるその言葉に、わずかに驚く。
「……気付いたんですかー?ミーが抜け出してたこと」
「は? …当たり前だろーが」
「……そっかー…そっか…」
「何の話だよ。つーか、スクがカンカンに怒ってるぜ。ほら……帰るぞ、フラン」
その言葉に、ほんの少し--------ほんの少しだけ、頬を持ち上げた。
ほら、と伸ばされた手を、そっと取る。
「……はい」
人間は、あまりに小さくて脆い存在で。
こんなちっぽけなミーには、何もできなくて。
それでも。
あんたがミーのことを覚えていてくれるなら、それでいい。
それだけでまた、
「センパイ」
「あん?」
「今度、一緒にここ来ましょうよー。今度は、星が見える夜に」
「……ん」
また、生きようかなって、思える。
そびえ立つタワーは、光を映して輝いていた。
fin.
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山なしオチなし、雰囲気文章でした。
勝手にフランでPV妄想してみた結果です(笑)
イメージ元→「タワー」KEI feat.巡音ルカ