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□月の下で
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月が、綺麗だったから。







久しぶりにバルコニーに出ようと思った理由は、ただそれだけだった。


そこに、あの二人がいるなんて、思わなかった。

















「っ!」



満天の星と、少しシャープな三日月の下。

月明かりに照らされながら談笑している二つの影を認めて、ミーはとっさに身を引いた。


左右にはねた、きらきら光る金の髪。
対して、真っ黒なポンチョを身にまとった影。
顔なんて見なくたってわかる。ベルセンパイと、マーモンセンパイだ。


なんで身を引いたのか、なんて愚問を今さら考えながら、話している二人を影から覗く。


何を話しているのかまではわからない。
その気になれば口の動きを読むのも可能だけど、なぜか知りたくなかった。


でも。
その髪に隠された横顔を見て、はっとする。




ベルセンパイのそれは、今までミーが見たことのない表情を浮かべていた。






笑ってる。



いつもミーに向けているような、無邪気な笑みじゃなくて。

内側に何かを抱擁して、すべてを預けて愛しむような…
優しい、笑み。







「……っ」



息を、飲んだ。


良い意味じゃない。


確かに。
綺麗だと思った。美しいと、心から思った。

でも、それは紛れもなく、ミーの知らないものだった。
ミーには決して、決して見せない表情だった。


ベルセンパイの綺麗な指が、風に煽られる横髪を耳にかける。
そのせいでさらにはっきりと見える、センパイの、心からの微笑。


なんで、何がこんなに苦しいのかわからない。
でも、胸が痛い。苦しい。気持ちが…悪い。


一枚のガラスを隔てて、ミーはただ、そこに立ちすくんだ。















どのくらい、そうしていただろう。


相変わらず、会話を続けている二人。
さっきと違って真面目な話をしているようで、センパイに笑みは浮かんでいない。どこか真剣な空気が流れている。
だけど、二人が話してることには変わりない。

マーモンセンパイが何かを言って、ベルセンパイがそれに頷いて。

不意に、マーモンセンパイがふわりと柵から外に飛び出した。
そのまま森の方に飛んで、夜の闇に溶け込んでいく。


…何をしに……?


突然その場を去ったマーモンセンパイに、気を取られたのがいけなかった。







「ししっ…盗み聞きは犯罪じゃね?カエル」









いつの間にかベルセンパイに、腕を掴まれていた。





 
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