Short
□タワー
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同タイトルの曲にイメージをいただきました。
あくまでイメージのみなので、本家さまの歌詞と矛盾している点もございます。
なお、KEIさん及び本家の動画・楽曲とは一切関係ございません。
以上をご了承の上、閲覧をお願いいたします。
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深い深い、夜の闇の中。
市街地から少し離れた場所に並んだ、電線を結ぶどこにでもあるような鉄塔。
そのなかのひとつ--------てっぺんからほんの数メートル下の鉄骨の上に、フランは立っていた。
ぽつりぽつり、雨粒がフランの頬を打つ。
弱く淡いそれは、土砂降りなんかよりよっぽどタチが悪い。
運が悪いなー、と足元の鉄骨を見下ろせば、濡れて艶やかに光るはずのそれは、全てを飲み込むような漆黒だった。
思考にはぼんやりと霞がかかっていて。
でもそれが、かえって心地良い。
今日、ヴァリアーの隊員がひとり、死んだらしい。
人間って、脆い。
それを感じたとき、フランはいつもここに来る。
別に、悲しむとか弔うとか、そういうんじゃなく。
ただ、ひとりになれるここが好きだった。
ふっと息を吐き出して、真下を見ていた視線を少し持ち上げる。
そこは一面、きらきらとした光に包まれていた。
ここからの夜景は好きだ。
雨に濡れて、どこか滲んで見える光を瞼に焼き付ける。
(……きっと)
きっと、今ここでミーが消えたって、誰も気付かないんだろう。
いや、ヴァリアー的には、幹部が消えて気付かないわけはないのだけれど。
でもここで、スッと空気に溶けるように消えてしまったなら。誰の記憶にも残らず、いなくなったなら。
それはそれで、いいかも知れない。
ふとそんなことを思って、瞼を下ろした。
一度、『消える』ことを経験している身だ。
それはもはや自分にとっては、あまりに身近なことで。今このときだって、背中合わせの事象。
ちかちかと、眼裏に残っている金色が輝く。
それとよく似た色を思い出して、胸が苦しくなるのを感じた。
……じゃあ、たとえば。
もし、あんたがいなくなったらどうなんでしょうね。
その問いに、目を開けて自嘲の笑みを漏らした。
そんなの、決まっているじゃないか。
「……忘れるわけ、ないでしょー」
わざと声に出してみる。
はじめて、ミーの零していた感情に気付いてくれた人。
ミーの、唯一の大切な……。
『--------フラン!』
不意に、声が響いた気がして。
はっと振り返る。
「………あ」
バランスが崩れた。
しかし、それよりも頭にあったのは、目の前は鉄骨ばかりで誰もいなかったということ。
体制を立て直そうとすれば、しかし雨に濡れた金属はフランの靴を捉え、滑らせる。
ぐらり。
あまりにあっけなく、重力が逆さになった。
視界が、鉄骨から空へと回転する。
そこは終わりの見えない漆黒で、ただ冷たい水滴だけが顔を叩く。
……落ちる。
頭でわかっていても、なぜかそれはとても自然なことのように思えて。
何もする気が起きなくて、身体から力を抜いた。
--------気持ちいい。
加速していく身体はしかし他人事のようで、やけにゆっくり感じる。
漆黒と、滲む光と、落ちていく小さな影。
それはまるで、一枚の絵のよう。
このまま、人知れず消える。
それもいいかも知れない……。
そう、誰も、気付かないんだから。
ふっと、再び瞼を下ろした、そのとき。
「--------フランっ!!!」
声が、確かに鼓膜を揺らした。