Short

□ウソまこと
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机に向かい、積み重なった書類の処理に追われる、比較的平和な昼下がり。


「綱吉君って……小さいですよねぇ」

その声は、唐突に響いた。










「こんにちは、遊びに来ました」


不意に部屋にかかった霧に紛れて現れた骸を、じとりと睨む勢いで見つめる。


「……おいこら骸、仕事は」

「書類ばかりだったので」

「理由になってないよ…。苦情、オレのところに来るんだからな」

「おやおや、そんな細かいことを気にするなんて、寛大だと噂のかのドン・ボンゴレが聞いて呆れる」

「…って、そうじゃなくて」


見事に流されかけた自分に呆れながら、本題に戻す。


「小さいって…どういう意味だよ」

「ああ、ふと思ったんですよ。…ほら」


ほら、と、頭の上に骸の手がぽんと置かれる。


……身長か。

理解して、ぶすっとむくれて見せた。



イタリアに渡ってからというもの、何度この身長を気にしたことだろうか。

別に、日本人としては群を抜いて背が小さいわけじゃない。中学の頃よりもそれなりには伸びて、今では日本人の平均身長くらいは何とか越えている。

が、しかし。やはり小柄な部類に属する自分は、イタリア人やらヨーロッパ系の人間に囲まれると、その身長がどうしても目立つ。
日本人だから、で話は済むはずなのだが、同じ純日本人であるはずの雲雀さんや山本は何故かすらりと高身長だから人間平等ではない。いや、むしろ自分には、薄くではあるがプリーモの血も流れてるはずなんだけれど。


「……仕方ないだろ、こればっかりはオレにもどうしようもないんだからさ」


少々むくれてぞんざいにそう言い放てば、骸はデスクに軽く腰掛けてクツクツと笑う。


「でも君、そのせいでよく街中の変な輩に絡まれるでしょう。マフィア関係なしに」

「う、…それは、まあ……波風立てないように処理してるから問題ないだろ」

「この辺りは、治安も悪いですからねぇ。ま、身分をバラしてしまえば何てことないんでしょうが」

「そう簡単に、そんなことできるわけないだろ。分かってるくせに」


もう自分の身長がどうしようもないことはわかってはいるが、骸に身長でからかわれると嫌でもムカつく。
自分はイタリア人で超スタイル良いからって、調子に乗るな。

自分の思考に悲しくなって溜め息を一つ。
あーあ、疲れてんのかな…。


と。
不意に骸が、机に腰掛けた状態から身を乗り出した。


え?と反応するより早く、すっと頬に手を添えられる。

そして、その向こうには、他人には見せないような柔らかな微笑があった。




「クフフ…、僕は、今の君が好きですがね」




とろりと甘く、全てを溶かすように響くその声は、その優しい微笑とあいまって、さらに甘く柔らかく染み渡る。

ああ、本当に……。


「…ばーか」


そう言えば、頬に触れたまま、くすくすと笑い出した。


「おやおや、酷いですねぇ、人がせっかく褒めているというのに」

「からかうなよ…」

「これはこれで楽しいので」


するりと、指が離れていく。
その動きすらどこか妖艶で、そこらの人間を騙すのには十分すぎる色気だ。
でも所詮はニセモノだと知っているそれがどこか可笑しくて、思わずくすっと笑ってしまう。


「なんですか」

「いや、何でもないよ」

「…あーあ、つまらないですねぇ。君みたいな甘い人間、一番落としやすいはずなんですが。厄介な超直感だ」

「何年一緒にいると思ってるんだよ」


苦笑してそう言えば、骸は再びオレの頭に手を置いた。


「…いいんじゃないですか」

「え?」

「背。別に、気にしなくても良いと思いますけど」

「…お前、自分は高いからって…」

「クハハ…、違いますよ、僕はただ」


スッと、手の重みが離れる。
それをほんの少し淋しく思いながら視線を上げれば、やけに優しい目をした骸がいた。


「君は十分に大きな人間だ、と」


その言葉に、一瞬目を見張る。
が、すぐに笑いがこみ上げてきた。


「…クサイなぁ」

「クフフ、解釈はお好きにどうぞ」

「はいはい。…もう行くのか?」

「ええ。僕も暇じゃないのでね」


そう言っていたずらに微笑んだのを最後に、再び骸の姿が霧に紛れて消える。
そこを見つめて、それからんっと伸びをした。





「……ほんっと、敵わないよなあ」





あいつが口にしたどれがからかいでどれが事実なのか。
きっと、多分、オレにしかわからない。


「…ありがとな、骸」


誰もいないそこへ向かって、ひとつ小さく呟いた。




fin.


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遅くなりました!
「玉響」様との相互記念文。「十年後で、骸がツナをからかう話」でした。

紫苑様へ感謝を込めて!

 

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