その他

□背中から伝う
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部屋の前に彼は立ち尽くしていた。

「せんぱーい、いい加減機嫌直してくださいよー。謝りますからー」
「やだね、ぜってー許さねー」

ベルの部屋のドアの向こう、奥の方から刺々しい声が聞こえる。恐らくベッドで丸くなってでもいるのだろう。

「そんなこと言わないでー。ほら、謝ってるじゃないですか」
「謝るとか謝ってるとかだけで謝ってねーじゃねーか!」
「ちょっと何言ってるかよくわからないですー」
「っこんのクソガエル…」

原因は、些細なことなのだけれど。積もり積もって爆発したらしいベルは、部屋に閉じこもってしまったのだった。いくら呼びかけても出てこない。

「ホント反省してますってー」
「嘘じゃん」
「嘘じゃないですー」
「うっせ黙れ」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」

束の間の沈黙が続く。先に口を開いたのはベルだった。音がさっきよりも近い。ドアの前に移動したようだった。

「バカガエル」
「‥‥‥」
「いるなら返事しやがれ」
「…黙れって言ったじゃないですかー」
「あー?」
「…もーいいです」
「もーいいって何がだよ」
「せんぱい、面倒ですー」

永遠に終わらないような気がしてきて気だるさが出る。立つのが疲れてきてドアに寄りかかって座ると、向こうの気配も動くのが感じられた。

「せんぱーい」
「んだよ」

声が近い。多分あっちも同じ体勢なのではないか。ドアを挟んで、背中合わせ。ベルの体温や鼓動が伝わってくる様だった。素直に気持ちが言える気がして、いつの間にかフランは口を開いていた。

「ごめんなさい」
「‥‥‥」

気配が動いてドアが開く。体重を預けていたフランは体育座りのままコロリと後ろに転がった。 視界にはベルがいて、上から見下ろしている。

「あてっ」
「鍵開いてるっつの…」
「知ってましたよー」
「はぁ?」

コロコロしながら言う。自分の本意を気付かれないように、でも気付いて欲しくて、結果ふざけた感じに言うのだ。いつもと同じ様に。

「先輩が開けてくれなきゃ意味ないんですよー」
「ちょっと何言ってんのかよくわかんねーな」
「それミーのパクリ…げろっ」

ナイフが頭に刺さる。ベルを見ると、いつもと同じ様に不敵な笑みを浮かべていた。

「ししっ、いーんだよ。なんたって王子だからな」
「ちょっと何言って略ですー」
「黙れっての。ちっ、相変わらずムカつくぜバカガエル。ほら、行くぞ」
「待って下さいよ王子(仮)ー」
「ナイフサービスしてやるぜ」
「嫌ですー…げろげろっ」

フランは空気がいつも通りに戻ったことを把握し、同時にこんなにも簡単な事だったのかと拍子抜けした。二人とも素直に言えないだけなことを改めて理解する。
その背中を追いかけながら、フランは薄く笑みを零した。


-fin-

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