その他

□1
1ページ/2ページ




ボンゴレ本邸。



広く長い廊下を歩いていると、聞き慣れた声に呼び止められた。


「骸」


振り返れば、ここのボスである青年、沢田綱吉がこちらに歩み寄ってくる。


若い、というより幼い容姿。
でも、確実に年齢以上のものを抱擁しているその姿は、この数年でかなり自信が見えるようになっていた。


「おや…ボンゴレですか。どうしました?」

「例の交渉。今から行くんだろ?」

「ええ」


例の交渉。

これから向かおうとしていた任務内容だった。


取り引き相手は、ロッソファミリー。
三代前から同盟を結んでいた中規模ファミリーで、沢田綱吉がボンゴレを継いでからも、表向きは友好関係を築いていた。

ただしそれは、あくまで表向き。

勘や観察眼がかなり鋭い者にしかわからないだろうが、彼らは確実にボンゴレを狙っている。
沢田綱吉が十代目に就任してから増えた、まだ不安定なボンゴレを狙う輩の一部だった。


これから行くのは、そのロッソファミリーとのとある案件の交渉兼、友好を深める意味で計画された会食の場。

…だが、ボンゴレ上層部は、ここで確実に相手が動き出すと見ている。
何かしらの襲撃を仕掛けてボンゴレを揺るがすには、またとない機会だ。
もちろん交渉のこともあるが、だからこそ、僕が指名された。


--------今回の任務の裏の目的は、行われるであろう襲撃の鎮圧と、ロッソ幹部の身柄の拘束だった。




「…何もないといいんだけど」

ぽつりと、彼が言う。

「どうせ、向こうがここを狙っているのは間違いないんです。決着を先延ばしするより、今日カタをつけてしまったほうがいいでしょう」

「でもこれじゃ、骸が囮みたいじゃないか」

「おや、僕を誰だと思ってるんです?」

不安そうな色を浮かべる彼に、不敵に笑って見せる。

「……」

「もう、時間ですね。行ってきますよ」

「……ああ」


彼が頷くのを確認して歩き出そうとしたとき、不意に彼が口を開いた。


「あの、骸」

「なんです?」

「……気をつけて」


その言葉にふっと笑う。


「すぐ帰ってきますから」

「……うん。行ってらっしゃい」



その言葉を確認して、僕は今度こそ歩き出した。









"すぐ帰ってきますから"


疑うことなく言った言葉。

疑おうとなんて、しなかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ