その他

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暗い、黒い世界。


そこを、ゆっくりと揺蕩(たゆた)う。



意識はおぼろげで、ゆらゆらと不安定に揺らぐ。

何も、考えられない。


身体が訴える鈍痛も、どこか遠い誰かのもののようで。



……ああ、でも、だめだ。

僕は、こんなことをするために、ここにいるわけじゃない。


なら、なぜ?

なぜ、ここにいるの?


重たい頭で答えを探そうとしたら、不意に、澄んだ琥珀色が頭をよぎった。



……つな…よし、

…沢田…綱吉。



どうしようもなく甘くて、でも誰より強い覚悟を持った、大空の青年。

途端、思考が引っ張り上げられる。


…ああそうだ、僕は、彼のもとへ帰らなければいけない。



おぼろだった意識がすとんと自分のものになった。

感覚が、痛みが、リアルな実感を伴う。



……彼が、心配してるんでしょうね。



心内でふっと笑って、思考を移す。

決して万全の状態とは言えないけれど。でも、このままでは先は見えている。
今の状態を考えると、直接彼に干渉するのは少し無理があるが……特別強い繋がりがあるクロームになら、連絡がとれるかもしれない。

すっと意識を集中させる。


--------クローム。聞こえますか、クローム。


かすかに感じる彼女の意識に、呼びかける。
細く脆いそれを、見失わないように、切れてしまわないように、丁寧に手繰り寄せる。



--------クローム。



*****



「っ!」


突然頭の中に響いた声に、思わず体を震わせた。


「クローム?」


ボスが心配そうに私を覗き込む。けれど、それに応える余裕なんてない。


-------…クロ…ム…、聞こえ……か、クローム。


頭に直接響くその声は、いつもよりずっと小さくて、触れたら壊れてしまいそうで。

それでも、確かなことは。


「…骸様…」

「え?」

「……骸様が、呼んでる」



骸様は、ちゃんと生きている。

その事実だった。


安心と動揺からこみ上げてくる涙を、唇を噛んで押し戻す。今は、泣いてる場合じゃない。

集中しやすいように瞼を下ろす。


--------骸様。私です、聞こえますか…骸様。

--------クロ…ム。…そちらから…繋げますか?

--------……、やってみます。


繋ぐ。
骸様の言うそれは、骸様と私の精神世界を繋ぐということ。

いつもは骸様が、私の精神世界に渡ってくるのに。
いつもは、もっとしっかりとした声が響くのに。

それだけで、今の骸様が少なからずダメージを受けていることが容易に想像できた。
言いようのない不安に、押しつぶされそうになる。


…でも今はとにかく、言われたとおりに骸様と繋がなくちゃ。

自信はないけれど、でも、きっとできる。


静かに意識を沈める。
精神を身体と切り離す。



意思を失って傾ぐ体を遠く感じながら、意識は深いところへと潜っていった。
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