その他
□3
1ページ/3ページ
暗い、黒い世界。
そこを、ゆっくりと揺蕩(たゆた)う。
意識はおぼろげで、ゆらゆらと不安定に揺らぐ。
何も、考えられない。
身体が訴える鈍痛も、どこか遠い誰かのもののようで。
……ああ、でも、だめだ。
僕は、こんなことをするために、ここにいるわけじゃない。
なら、なぜ?
なぜ、ここにいるの?
重たい頭で答えを探そうとしたら、不意に、澄んだ琥珀色が頭をよぎった。
……つな…よし、
…沢田…綱吉。
どうしようもなく甘くて、でも誰より強い覚悟を持った、大空の青年。
途端、思考が引っ張り上げられる。
…ああそうだ、僕は、彼のもとへ帰らなければいけない。
おぼろだった意識がすとんと自分のものになった。
感覚が、痛みが、リアルな実感を伴う。
……彼が、心配してるんでしょうね。
心内でふっと笑って、思考を移す。
決して万全の状態とは言えないけれど。でも、このままでは先は見えている。
今の状態を考えると、直接彼に干渉するのは少し無理があるが……特別強い繋がりがあるクロームになら、連絡がとれるかもしれない。
すっと意識を集中させる。
--------クローム。聞こえますか、クローム。
かすかに感じる彼女の意識に、呼びかける。
細く脆いそれを、見失わないように、切れてしまわないように、丁寧に手繰り寄せる。
--------クローム。
*****
「っ!」
突然頭の中に響いた声に、思わず体を震わせた。
「クローム?」
ボスが心配そうに私を覗き込む。けれど、それに応える余裕なんてない。
-------…クロ…ム…、聞こえ……か、クローム。
頭に直接響くその声は、いつもよりずっと小さくて、触れたら壊れてしまいそうで。
それでも、確かなことは。
「…骸様…」
「え?」
「……骸様が、呼んでる」
骸様は、ちゃんと生きている。
その事実だった。
安心と動揺からこみ上げてくる涙を、唇を噛んで押し戻す。今は、泣いてる場合じゃない。
集中しやすいように瞼を下ろす。
--------骸様。私です、聞こえますか…骸様。
--------クロ…ム。…そちらから…繋げますか?
--------……、やってみます。
繋ぐ。
骸様の言うそれは、骸様と私の精神世界を繋ぐということ。
いつもは骸様が、私の精神世界に渡ってくるのに。
いつもは、もっとしっかりとした声が響くのに。
それだけで、今の骸様が少なからずダメージを受けていることが容易に想像できた。
言いようのない不安に、押しつぶされそうになる。
…でも今はとにかく、言われたとおりに骸様と繋がなくちゃ。
自信はないけれど、でも、きっとできる。
静かに意識を沈める。
精神を身体と切り離す。
意思を失って傾ぐ体を遠く感じながら、意識は深いところへと潜っていった。