その他
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ボンゴレのエンブレムが彫刻された扉の奥、ボンゴレボスの執務室。
チッ、チッ、チッ、……
最近では珍しくなった、オレの趣味で置いてあるアナログ時計。
その秒針を、じっと見つめる。
この小一時間で見つけた、一番はやく時が過ぎる方法だった。
無理やり執務室に押し込められて、はや二時間。
最初こそ、どうすればいい、どうするべきなのかとずっと考えていた。
あらゆる手立てを考えた。
ヴァリアーに動いてもらおうかとも考えたし、ディーノさんや炎真たちに協力してもらおうかとも思った。いっそ一人でボンゴレを抜け出そうかとも。
でもどれも、結局は仲間を傷つけるだけで、実現性は限りなく低くて。
そして、焦りを伴った集中力なんて、一時間が限界だった。
考えすぎて頭の中はぐちゃぐちゃで、それでも出した結論は結局。
リボーンの言うことが正しい、ということだった。
すなわち、骸を信じてオレはじっとしているのが最善だと。
今のオレには、こうすることしかできなかった。
骸の件については、さっきの四人以外誰も知らない。
ファミリーに心配はかけられない。
ファミリーを動揺させちゃいけない。
ボスとして考えれば、最後にたどり着くのは結局そこで、そんなんじゃ身動きなんて取れるはずなくて。
だからとにかく、今は平静を装おうと決めた。
それが、ドン・ボンゴレとして、今の自分のすべきことだと判断した。
しかし、机に山をつくりつつある書類の数々に手をつける気にもなれなくて、とにかく時をやり過ごすこと、さらに約一時間。
そして、今に至る。
--------でももう、さすがに疲れた。
形だけ持っていたペンを、ついに諦めて放り出す。
んっと軽く伸びをして、息を吐き出して。
少し瞳を伏せてから、
拳を机に叩きつけた。
僅かな痛みと共に、手のひらがジンと熱を持つ。
本当なら…こんなことをしている場合じゃないのに。
すべきことはわかっているのに、この身は組織にがんじがらめに束縛されて動けなくて。
だから無理やり、リボーンの考えに着地させた。
そんなこと、わかってる。
悔しい。不甲斐ない。
悔しい。悔しい。
溢れてくるそんな感情と焦りに、身を任せたい。
今すぐ駆け出して、骸の元へ行きたい。会いたい。
それが、「沢田綱吉」としての純粋な思いだった。
しかし、いつまでもこんな姿をしているわけにもいかないのが現実。いつ、誰が入ってくるのかわからないのだ。
再び息を吐き出して、表情を作る。
と、そのとき。
ガチャリと、音がした。
聞き覚えのあるそれは、部屋の扉のノブが回された音。
……え、ノックなし?
オレの困惑をよそに、ゆっくりと開かれる扉。ちらりと覗いたのは、漆黒の髪。
そこに立っていたのは。
「……雲雀さん」
孤高の浮雲、その人だった。
…ってえ、なんで。
雲雀さんは一応ボンゴレ守護者の一人だし、風紀財団ともそれなりの繋がりはある。
でも、雲雀さんは基本的に群れるのを嫌う。普段こっちに来るのは、たいてい草壁さんなのに…。
しばし唖然としていたが、やがて我に返った。
雲雀さんとはいえ、例の件は知らないのだ。
慌てていつもの笑顔を作って、声を掛ける。
「…あ、雲雀さん、お久しぶりです。どうしたんで…」
--------避けろ!
突然の、超直感からの警報。
考えるより先に、本能のまま体を沈ませた。
「っ⁉」
同時に、髪を何かが掠める。
それがトンファーであることを視界の隅で確認しつつ、体制を立て直す。
続いて左から飛んで来たトンファーを、とっさに腕で受け止めた。向こうは引く気はないらしく、そのままぐっと力を込めてくる。
容赦なく込められている力に、鈍い痛みが走った。
そのトンファーと腕の隙間から覗くのは、雲雀さんの、本気の眼。
「……雲雀さ」
「何、ヘラヘラしてるの。ムカつく」
「……?」
「隠さないで。
…そんなこと、してる場合じゃないんでしょ」
…耳を、疑った。