その他
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「がッ」
繰り出された匣兵器の攻撃を避けて、相手のみぞおちに拳を叩き込む。
そのまま崩れた体を支えて寝かしてから、ほんの少し眉を顰めた。
建物の中に入ってから、十数分といったところか。
オレは着実に、前に進んでいた。
骸が今どこにいるかなんて、わからない。もしかしたら、自力で抜け出してるかもしれない。
でも、とにかく前へ、奥へと進む。オレがそうしたいと感じたっていうことは、多分それで合っているんだろう。
ファミリーのフリをして潜入できたら良かったけれど、あいにく、東洋人というだけでボンゴレボスだとばれかねない身だ。それにそもそも、嘘をつくのが得意な性分じゃない。だから、とった作戦は体当たりだった。
できるだけ見つからないよう、身を隠しながら進む。見つかったら潔く戦って、できるだけ穏便に倒す。ついでに監視カメラにはステルス用の匣を使って、監視の目をごまかす。
これで、ここまでは問題なく進んできた。
ついさっき倒した男の体を、端に寄せる。
それから、唇をかんだ。
……おかしい。
それは、明らかなことだった。
周りに人影が無いことを確認して、走り出す。
それでも、思考は巡る。
問題ない? そんなの、ありえない。
ロッソだって、れっきとしたマフィアだ。それなりの手練れもいれば、不審者を捉えるための手段だって用意されているだろう。…そのはずなのに、オレの正体どころか侵入がばれる気配すらない。
それにステルス用の匣だって、大空属性のオレの炎じゃ能力を出しきれていない。
こんな状況で、すべて上手くいっているほうがおかしかった。
それに、さっきから見かけるロッソの構成員の様子も気にかかった。
皆、どこか慌てているのだ。
そう、まるで--------
何か、異常事態が起きているよう。
その「異常事態」がオレの侵入でないことは、未だ警報が鳴らされていないことからわかる。
もう数人と対峙したのだ、アラン一人で制御できる域はとうに越えていた。
ならなぜなんだ、なぜ……。
ぐるぐると際限なく回る思考。
それを、頭を振って追いやった。
…今は、それを考えるべきではない。
そもそも、考えてわかるようなことならとっくに超直感に引っかかってる。
それに何より、今やるべきなのは、考えることじゃなくて動くこと。
だから、オレは進む。
順調に人の少ないルートを通って、曲がり角に差し掛かったとき。
ぞわり--------
不意に、肌が粟立った。
--------え?
なんだ、何が……。
疑問がよぎるが、足は止まらずにそのまま角を曲がる。
そして、視界に飛び込んできたものは。
「……ッ!」
あまりに予想を越えていたそれに、思わず足が止まった。
見たくないのに、視線が釘付けになる。
だらしなく広がった四肢。
驚きをくっきりと映している瞳。
そして、胸と床に大きく咲いた、赤。
それは確かに人間、だったモノ。
脈なんて、確認しなくてもわかる。
もう、……。
動く気配のないそれに、吐き気がせり上がってくる。
「……な、んで……」
なんで。なんで。誰が、なんで。
思考は働かないのに、疑問だけが募る。
「……っ」
だめだ。立ち止まってはいけない。
勢いに任せて、再び走り出す。
誰が、こんな。
骸? …違う。
あいつは、必要でない限り、あんな残忍な殺し方はしない。
なら、ならば誰が……。
と、そのとき。
意図せず、ピタッと足が止まった。
--------隠れろ!
突然の警告。咄嗟に、柱の影に身を隠す。
と同時に、声が響いた。
「だっ…誰か! 誰か、来てくれッ……!!」
「…?」
声の主は、ロッソの構成員だろう。
何が起きたのかわからず、様子を伺う。
一人の男が、すぐそこの部屋からよろよろと出てくる。そのまま後ずさって、壁にもたれた。
その表情は、驚きと怒りと焦燥が入り混じった、複雑な感情にわなないていて。
嫌な予感が、背筋を走った。
「--------ボスが殺られた!!!」