その他
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きっとオレは、何も知らなかった。
何も、わかってなかった。
いや、知らないことにすら気付いていなかった。
何ひとつ、知ろうとなんてしていなかったんだ------------
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「--------ッ!!?」
扉を開けた途端、中から暴風が襲ってきた。
とっさに、腕で顔を庇う。
と同時に、今までとは比べものにならない強さで、身体を「あの感じ」が叩きつけた。
…ああ、知ってる。
知ってるんだ、そう、確か……。
そして、思い出した。
脳裏にちらついた二つの姿に、はっと息を飲む。
そう…似てるんだ。
過去の未来で、幻騎士と戦ったときと。
そして、黒曜ランドで始めて炎を灯したあのときと……。
心臓が、速く、大きく跳ねる。
……骸、お前…まさか。
暴風の中目を開けて、部屋の中を見る。
そして、驚愕した。
「………骸…ッ!」
黒い霧を纏った骸が、部屋の中心で--------
アランの首を、絞めていたから。
立った状態のまま、腕を前に突き出してアランの首を掴んでいる骸。
その手には、強く力が込められていた。
その光景に、思考が停止する。
黒い霧……に見えたのは、どす黒いオーラ。
過去に対峙したときとは比べものにならない大きさのそれが、暴風を生み出し、自分を拒んでいる。
さらによく見れば、肌を覆う黒い模様と、真っ赤な右眼に浮かんだ「五」の文字。
そして、右手の中指で不気味に光る、ヘルリング。
扉を開けたオレには目もくれず、ただ憎々しげにアランを見つめていた。いつもの冷静さの欠片もない。
一目でわかった。自我を失っている。
その姿に、あのときの幻騎士の姿が重なった。
『ヘルリングは、人の精神を喰う--------』
…喰われているというのか。
あの、骸が。
ヘルリングの暴走、そして人間道の併発。
そうとしか考えられない状況だった。
「……が…ッ」
アランの苦悶の声に、ハッとする。
反射的に、止めなければと思った。
このままじゃ、骸は彼を殺す。殺めてしまう。
「--------やめろ、骸ッ!」
いつの間にか手袋に戻っていたそれを素早くグローブへと変化させ、後ろに向かって炎を噴射する。
そして、アランの首を絞め上げる骸の腕に、手刀を落とした。
その、一瞬。
ほんの一瞬触れた手から、イメージが流れ込んできた。
思わず、目を見開く。
胸が締め付けられるような、どうしようもなく恐怖するような、そんな思い。
それが、一瞬ぐわりと意識を攫ったのだ。
緩んだ骸の手を視界の隅に捉えながら、そのイメージの濃さに思考が止まる。
濃く、深いそれは。
……黒いオーラの核になっている、骸の思いだった。