その他
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「…骸!」
がくりと、急に崩れた身体を慌てて受け止める。
そのまま下ろしてやれば、ゆるりと膝をついた。どうやら、意識は失っていなかったらしい。ひとまず胸を撫で下ろす。
しかし、ここまででかなり体力を消耗していたであろうことは明らかだった。
--------はやく、終わらせないと。
そのとき。
「…はは…、っあははははは!!!」
唐突に響いたその声に、振り向く。
笑い声の主は、見るまでもなくアランだった。
ひとしきり笑って、それを引きずったまま口を開くアラン。
「…まさか、ヘルリングなんて代物を隠し持っていたとはね、気付かなかったよ! ヘルリングの暴走を見るのは初めてだ……それに、大空の炎での浄化? そんなもの、聞いたことがない…!
六道眼だけでも大きな収穫だというのに、ああ、まったく……君たちには、予定を狂わされてばかりだ!!」
ふぅ…と息を吐いてから、クスリと嫌な笑みに挿げ替える。
「……なんて素晴らしい研究対象だろうね」
その言葉と笑みに、背中がぞわりと粟立つ。
それを跳ね返すように、アランを睨んだ。
今なら、容易に想像がつく。
この白衣の男が、どのようにして骸の傷を抉ったのか。
知ってか知らずかこの男が骸に与えた傷が、どれほどのものだったのか。
しかし今は、それよりも言及すべきことがある。
怒りを込めて、ゆっくりと言葉を吐き出した。
「……ここのボスを殺ったのはお前なのか、アラン・ヴィーテ」
「そうだ」
笑みと共に、あまりに簡単に吐き出されたそのセリフ。
ぐっと力を込めて、アランを見る。
「…なぜ、殺した。お前のボスじゃないのか…なぜ殺す必要があったんだ」
「簡単なことだよ。六道眼の研究に邪魔だったんだ」
「…?」
「ボンゴレ守護者である六道骸は生かしておくには危険すぎる、さっさと殺せと言われたんだよ。こんなにも利用価値のある人間だというのにね、保身を優先するなど愚かな話だろう?…だから殺した」
「……、他の…構成員は」
「指令室の連中は、君を生かしたままここに誘き出すのに邪魔だったから。他の何人かは、返り血を見られてしまったんで仕方なく、ね」
邪魔だった。利用価値。仕方なく。
その言葉に、怒りが募る。
「……お前は…っ、ここの…ファミリーじゃないのか」
「おや…君は、そんな甘ったるい考えを持っているのか、ドン・ボンゴレ。君だって、見ようとしないだけで本当は気付いているだろうに」
「……」
「ボンゴレ内にだって、私のような因子はいるんだよ?」
ファミリーを利用してでも上に登りつめようとする者。
あるいは、はじめからファミリーを潰す目的でファミリーに入る者。
そんなの、何も珍しいことじゃない。
「それが、この裏社会だ」
放たれたその言葉に、目を細める。
…そんなこと、わかっているさ。
「……確かにそうだ。ボンゴレにだって、オレを疎んでる人はいる」
「ほう?」
「でも。オレは、ファミリーを疑いたくない。『いる』っていう事実は知った上で、それでも信じたい。信じてる。
……きっと」
アランの鳶色の目を見つめて、続けた。
「きっとドン・ロッソだって、そうだった!」
お前を、信じていた。
ファミリーを信じられない者には、ボスでいることなんてできない。それは、どんなに小さな組織だってそうだ。
オレも、ドン・ロッソと何度か話したことがある。だから知っている。彼が、ファミリーを大切にしていること。
確かに彼はボンゴレを甘く見て、結果的にはこうして敵対関係だ。
でも、でも。
それだって、すべて。
ファミリーを想っての行動だったんだ。
「なのに…なぜ…!」
そのとき。
「…っ⁉」
不意に、ぶわりと目の前が白で覆われた。