その他

□過去の悪夢にさよならを
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――次、No.69。来い


暗い、記憶。
痛みしかない、苦しい記憶。
そこで自分は震え、蹲ることしかできなかった。


――諦めろ


嘲るような声は恐怖しかうまない。



――お前に自由など、ないーー!!




「―――っ」

薄暗い部屋。申し訳程度に揃えられた家具やベッド代わりに使っている古びたソファー。
それを一瞬で視界に入れ、息を吐く。
バクバクと心臓の音がうるさい。背中に流れる汗はいやに冷たい。

「はぁ…」

なんとか落ち着こうと深呼吸するが、それは無駄に終わった。

お前に自由など…

嫌な声が、忌々しい声が響く。
骸は無言で立ち上がり、黒曜ランドを後にした。



◇◇◇

月明かりがあたりを照らす。漆黒に塗られた空に白銀の月はよく映えた。
夢見が悪く、もう一度寝るには抵抗があって。なにも考えず、ブラブラと歩けばついた先は小さな公園。
そこに設置されているブランコに腰掛け、ゆらゆらと小さく漕いだ。

「あれ?骸?」

「ボンゴレ」

公園の入り口にはコンビニの袋を抱えた綱吉が、目を丸くしながら骸を見つめていた。そして、何を思ったか骸に近寄ってくる。

「なぜここに?」

「いや、ここ並盛だし、近所だし」

「……おや?」

知らぬまに隣町まで歩いていたらしい。
骸の様子に綱吉はポツリと呟いた。

「…ボケ?」

「はい?」

「すみませんっ!」

笑顔で聞き返せば綱吉は腰を九十度に曲げ、謝った。その様子を蔑むように見下ろす。

「君はなぜこんな時間にコンビニに?」

「リボーンが…」

「ああ」

つまりリボーンが何か我が儘を言い、そのとばっちりが綱吉に向かったのだろう。毎度のことながら少し憐れにも思う。同情はしないが。

「骸は?なんでいんの?」

「散歩ですよ」

「え、年寄りみた…」

「六道、廻ってみますか?」

「全力でごめんなさい」

学習能力がないのか、綱吉はまた腰を九十度に曲げ謝った。
そしてそのまま骸の隣のブランコに腰かける。

「骸さー」

キコキコとブランコを漕ぎながら綱吉は言う。

「何か、あったんだろ」

「なぜ?」

「泣きそうな顔してるから」

大きく、大きく漕ぎながら言う。
綱吉の言葉に虚を疲れたような表情を浮かべる骸。


――お前に自由など、ないーー!!


顔が歪むのがわかった。
けれどもう気づかれているけれど、見られるのは嫌で。
骸は俯いた。
その際に下に零れる髪を見て、きれいだなと綱吉は思った。

「――骸」

ぴょん、と勢いをつけてブランコから飛び降りた。無事に着地できたことに感動を覚えながら、綱吉は振り返る。


「お前は今、自由だよ」


その言葉に骸は瞠目した。


――お前に自由など…



「てか、俺の知り合いはみんな自由人だしね。その中でもお前は雲雀さんに次いで自由人じゃん?」

「君は…」

お気楽に、笑いながら言う。
それを聞いて骸は何とも言えない表情を浮かべた。

なにも言っていないのに。
悟らせた覚えもないのに。

なのに、どうしてこうも意図も容易く見破るのだろう。

すべてを包容する大空とはよく言ったものだ。


「バカですね」

「いきなりの罵声!?」

「ほめているんですよ」

「どこが!?思いっきり貶されましたけど!」

いきなりバカ呼ばわりされ、怒る綱吉。まるで小動物のような様子に骸は笑みがこぼれた。

「君のバカさ加減を見てると、夢なんかで悩んでいた自分がアホらしく感じました」

「…え、と…。つまり?」

「君がバカだと言うことです」

「結局貶してんじゃん!」

からかえば食って掛かる様子に、どうして笑わずにいられようか。
ブランコから離れ、公園の入り口に向かう。そろそろ帰ろうかと思ったのだ。
 
「あ、おい!」

「帰ります。では」

「人を貶すだけ貶して帰るのかよ!」

綱吉の言葉を最後まで聞かず、骸は並盛をあとにした。

さんざん怒鳴っていた綱吉は不意に、困ったような、それでいて嬉しいような、慈しみに満ちた笑みを浮かべる。


「――やっぱり、お前は自由だよ」


そう呟いた言葉は、大空へと消えた。




Fin.


 

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