桜雨

□微笑の裏
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ボンゴレでの生活は、基本的に慌ただしい。

そしてそれは、今日とて例外ではなかった。













「い、いらっしゃいますか、ボス」



あ、誰か来た、と思ったら、硬いノック音と共にそう緊張しまくった声が聞こえた。

めずらしいな、と一人思う。

緊張の仕方からして、守護者や、位が上の者ではないだろう。
できるだけ優しい声で返事をする。


「いいよ。入って」

「はっ、し、失礼します…!」


入ってきたのは、予想通り記憶にない顔の二人組だった。
胸のピンバッジから、二人とも霧属性の者だと分かる。霧部隊の構成員といったところだろうか。


しかし……
なんというか、二人ともものすごく緊張している。
そりゃあ、身分上俺に会うことなんて滅多にないだろうし、まして直接話すなんてそうそうない事だろうけど。でも、そういうのとは少し違う感じがする。


「どうしたの?」


話してごらん、と微笑みかければ、ごくっと唾を飲み込む二人。
………いやいや、どんだけ緊張してるんだよ。

一人が代表して、口を開いた。


「…その、単刀直入に申し上げますと…」

「……」


神妙な声音。
こちらも、思わず構えてしまう。

そして、紡がれた言葉は。


「…何か、骸さんに重大なことが起きているのではないですか?」

「……っ」


……骸のことが、バレた?

思わぬ言葉に、ぴくりと反応した。


『六道骸』が入れ替わって、もうかなりの日数が経つ。
今のところ、その事実を知っているのはリボーンと守護者の面々だけだ。

骸については、なんとなく避けられている感はあるものの、仕事自体は滞りなくこなしていたから心配なんてほとんどしていなかった。
それに、クロームが上手くフォローしてくれるとも言っていたのに…。


「……なんで、そう思うんだ?」


とりあえず、笑いながらそう聞いてみる。
今、ファミリー内に事実を広めるわけにはいかない。

もう一人のほうが、一歩前に出た。


「…ボスも、とっくに気付いておられるんでしょう?」

「……」

「だって、あの骸さんが……」

「……」












「ここ数週間、ずっと仕事に来ているんですよ⁉︎」












……、はい?


「……え」

「あの、サボり魔で有名だった骸さんがですよ⁉︎ 戦闘モノの任務に出るだけ出ていろんなものを壊しておいて、その後処理を全部俺たちに押し付けていた骸さんがですよ⁉︎⁉︎ いや今でも八割押し付けられてますけど! でもとにかく、ボンゴレに顔を出すどころかずっとここに泊まっているだなんて、何か余程のことが起きているとしか…‼︎」

「そうなんです…っ、クロームさんに聞いても、『心配してくれてありがとう…でも、骸様なら大丈夫だから』の一点張りだし…もう、ボスに相談するしか…」

「あの骸さんも、ボスのことは信頼しているでしょう⁉︎ ボス、どうして骸さんは俺たちに、何も教えてくれないんでしょうか…!」


どんどん加速していく勢いに、思わずたじろいだ。

……ああ、クロームは嘘つけないんだった。
はあぁ、と頭を押さえる。


提案したのがリボーンだったから、骸のすり替え作戦は完璧だと思っていたけれど……まさか、こんなところに落とし穴があるなんて。




骸がボンゴレに対して極度のサボり魔であることを、すっかり忘れていた。
そりゃあ疑われもするだろう。




 
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