桜雨
□願い
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「どういう……どういうことですか。なぜ君が、そんなことを知っている!」
「落ち着きな。…風紀財団の独自ルートからの情報だ。信用はしていい」
ことりとコーヒーカップを置いた彼を見つめ、自分もフォークを皿へ戻す。
動揺を隠せない。
ぐっと、拳を握り締める。
風紀財団の独自ルート。
ボンゴレの所持するルートほど大規模ではないが、その正確性が確かなのは良く知っている。
自由度も高く、目の前の男が望めば大抵の情報は手に入るらしい。
そして何より、そもそも彼は、こんなつまらない嘘をかましたりはしない。疑いようがなかった。
少し前から、予感はあった。
あの抗争がまだこの世界では起こっていないと知った時には少なからず安堵したが、『六道骸』を向こうに潜入させている時点で両者の関係が良好だとは言い難い。
いずれ、ぶつかる時は来る。前のときと同じように、本当に些細なことで弾ける。
それはわかっているつもりだった。
だが、こうも早く形になるとは。
瞬間的に脳裏を過る、あの時の光景。
彼の背中と、そこに映る赤いポイント。
叫び声と、彼の驚いた表情。
流れ出る命の、感触。
もしも、もしもまたそんなことになれば、その時、僕は……--------。
「ねえ、骸」
不意に名前を呼ばれ、顔を上げる。
「……」
「馬鹿なことは、考えない方がいい」
「……?」
思わず、彼の顔を凝視する。
一瞬--------一瞬、なぜかとても、泣きそうに歪んで見えたから。
雲雀恭弥にあるまじき、弱々しい…。
しかしそれは、すぐに消えてしまう。
そして代わりに、また、あの無表情で口を開いた。
「……ねえ、君は、綱吉のことが大事?」
「え?」
あまりに唐突な質問。
一瞬、呆けてしまう。
その質問は、昨日、クロームにされたものと良く似ていた。
『…骸さまは、ボスが嫌いですか?』
問うていることは真逆でも、真意はきっと似通っている。
…ああ、そういえば。
僕はあの問いに、まだ返事をしていなかった。
無論、嫌ってなどいない。
嫌ってなどいないのだ。
ただ、……。
「……なぜ、そんなことを」
質問に答える代わりに、そう聞きかえす。
先に答えろと言われると思っていたのに、するりと彼の口から零れたのは僕の問いに対する答えだった。
「もしも君がこの問いに『Yes』と答えたら、笑ってやろうと思ったからさ。大馬鹿者だってね」
「は……」
「ずっと、沢田綱吉を避けているだろう。いや、彼だけじゃない…この世界の人間全てを」
「……っ」
「なぜ?」
…雲雀恭弥にまで、バレていたのか。
こういうとき、彼は興味が無いだけで、決して他人に目を向けないわけではないのだと痛感する。同時に、洞察力も十分に持っているのだ。
椅子に掛け直して指を組む彼を、じっと見つめる。
「……」
「別に君が誰を嫌おうが、僕には関係のない話だけど。僕は、君は一度信用した人間に掌を返すほど馬鹿じゃないと、そう思ってる」
「……」
「なら君は、何が怖くて、沢田綱吉を避けるんだい? 彼に嫌われること? 彼に、拒否されること?」
「…やめなさい、雲雀恭弥」
「やめないよ。ああ……君みたいな捻くれ方をしていると、『一度失ったソレをもう失いたくない、もう作りたくない』なんていうのもあるのかな」
その言葉に、ぐっと唇を噛んだ。