新・IS夢小説

□第1章
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ーーー〜♪

誰だろう。 誰かが歌っている………。

知らない、けれどもどこか懐かしくも感じる声で。

聞いたことのあるようでないような声で。

知らない、けれど見覚えのあるような人物が。

(ここは………どこだろ?)

くるりとあたりを見渡せば、見慣れない道場の景色が広がっていた。
どこにでもあるような、何の変哲も無い、代わり映えのしない道場の中央で、この場には不釣り合いな白い女性が歌っている。

俺と同じアルビノなのだろうか? 女性の髪は色素がないといっても過言ではないくらいに白く、ちらりと覗く肌も白い。
女性はこの場をコンサートホールとでも勘違いしているのか、両手を広げて高らかに歌う。 歌に集中しているのか、目を閉じて、まるで幾万の人に聴かせるように身振り手振りを駆使しながら。

(それにしても、綺麗な声だなぁ………)

透き通るような声だが、それでいて凛とした自己を感じさせる力強さも感じさせる。天使の様な声、という比喩表現があるが、彼女の声はまさにそれだ。 天使そのものの声といっても過言ではないだろう。
そんな声で歌われるものだから、つい聞き入ってしまった。

しばらくして女性が歌い終わるとひとつの拍手が道場に響き渡る。
その音の発生源が自身から、ということに少々の驚きを持ちながら、俺の口は賞賛の言葉を告げた。

「とても良い歌声でした」

「ありがとう」

女性はそういって今まで向けていた背中を反対に向けて、柔らかな笑みを浮かべて答えた。
少しばかりドキッとしてしまったのは気のせいじゃないだろう。 それだけ魅力的だったのだ。

しかし、今はそれどころではない。 俺は頭を切り替えて女性に質問を投げかける。

「それで、ここはどこなのでしょうか?」

「どこだと思う?」

「どこかの道場………でしょうか?」

「そう。 貴方にはそう見えるのね」

おや、おかしな事を言う。 ここを道場以外の何に見えると言うのだろうか? 人によっては体育館、などといいそうだが、ここまで狭い体育館などありはしないだろう。

「貴女にはどう見えるのですか?」

「さぁ、どう見えていると思います?」

…………質問を質問で返された。 しかも答えにくい質問で。
俺がどう答えたものかと頭を悩ませていると、女性はくすくすと笑っていた。 どうやらからかわれたようだ。

「まぁ、貴女が道場と言えば道場なんでしょう。 少なくとも、私も道場だと思いますよ」

それはよかった。 どうやら俺の認識は間違っていなかったらしい。

しかし、だとしたら俺はいつの間にこんなとこにいたのだろう?
最後の記憶は…………うん、確かあのISの部屋だ。 這って行った覚えがある。
そこで意識が途切れたのだから、せめてあの部屋、もしくは病室にいなきゃならないはずなのだけれど…………。

「うふふ」

女性は俺の考えなどお見通しとばかりに、意味深な笑みを浮かべていた。
どう言う事なのかと聞こうかと思った瞬間、俺の後方からガコンッ、と言う重たい音が響いた。

何事かと思っていたら、道場の出入口にあたる部分、そこに先ほどまではなかったはずの鉄の扉が鎮座していた。
重たそうな扉は徐々に、ゆっくりと開いていき、開いた隙間から光が差し込んでいる。

「そう、時間なのね」

「時間?」

「さようなら、桜雪。 また貴方に会える事を、楽しみにしておくわ」

「え?ーーー」

振り返るとそこに女性の姿はなく、閑散とした道場の景色だけが浮かんでいた。 何が何だかわからないと頭を悩ませているうちに扉は勢いよく開き、眩しい光が世界を包むのだった。
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