IS夢小説“黒き暗殺者” U

□第36章
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第6アリーナの一件から翌日、放課後の第2整備室。

『わざわざきてもらって悪ィな、薫子』

「言っておくけど私は高いわよ〜? 独占インタビュー………ううん、デート1回ね」

『Dead? なンだ? 自殺願望でもあるのか?』

「いや、そんなわかりやすいボケはしなくても………」

簪の専用機を完成させるにあたって、まずは整備科2年のエース・黛 薫子の力は必須だろう。

「はーい、はーい、はーい。私も〜ななんとデートがいいなぁー」

そして布仏 本音。 まだ1年だが、その能力は十二分に戦力となる。

『てめぇもか。 日本では自殺でも流行ってンのか?』

「そっちじゃなくて〜、買い物とか〜、おいしーもの食べたりとか〜、そう言うのだよ〜」

む。 あれか、時折他のメンツやらに連れて行かれるやつか。それに連れて行けと。 …………少々面倒ではあるが、致し方あるまい。

「誤解も解けたところで、あとは京子とフィーに手伝ってもらいましょうかねぇ」

言いながら、薫子は携帯電話を取り出して、チームを集めにかかる。
そのエサはもちろんーーー

「うん。ナナくんとツーショット写真。自費でいいなら学内デートもOKだけど?」

やはり俺なのか。 だがしかし、こンなちンけなエサでタイが釣れるのなら儲けモンだな。

「マジで⁉」

電話の向こうで確認の声が聞こえる。おそらくこいつが“京子”なのだろう。

『…………可能な限り、善良しよう』

「よしっ!よおおおしっ! やる! やってやる! ずっちん、カメラは1番いいのにしてくれよ!」

ずっちん…………あぁ、薫子のことか。

「はいはい。フィーは?」

「ふにぃ。 私はぁ、織斑くんのまっさあじをキボーしますぅ」

『生憎だが、一夏のやつは寝込ンでてな。 いねぇンだ』

まぁ、元はと言えば昨日、少しキツめの仕置きをしたのが原因なのだがな。 寝込ンでるというか、怪我で動かねーってのが正しい言い方だ。

「ふみぃ。 ならぁ、ナナくんでいいですぅ」

『オーライ。 やれるだけやろう』

「よっしっ! 決まりね! じゃあ今すぐ第2に集合! 遅れたやつはジュースおごり!」

そう言って電話を切る薫子。しかし、第2整備室にはすでに俺に簪に薫子に本音が揃っているわけで、事実上京子とフィーのタイマンである。

「じゃー、一丁やりますか!」

にやりと笑みを浮かべる薫子。それから30分後、俺は整備科の厳しさをイヤというほど味わう羽目となった。

「ナナくん、そっちのケーブル持ってきて! 全部!」

「あと、こっちに特大レンチと高周波カッター持ってきて」

「ふゆぅ。空中投影ディスプレイが足りてないので、液晶ディスプレイ取ってきてくださいなぁ。 8個ほど。 あと、小型発電機も借りてきてねぇ」

『…………オーライ』

とにもかくにも俺は走り回っていた。
簪の専用機“打鉄弐式”を優先して完成させるため、2年生の整備科メンバー全員がそちらの作業に取り掛かっていた。

ハードウェアは各部ブースターからスラスター、それに全身の装甲、武器、内蔵火器とほぼすべての要素。 それらを1からデータチェック、必要に応じてパーツを新造し、形にしていく。出来上がったものからすぐに試験稼働させるため、簪はISを装着したままである。

結果論から言えば、総替えだ。
ソフトウェアの書き換えから何から何まで……………おかげであっちへこっちへのダッシュの連続。 恨み辛みや弱音を吐く気はねーが、これだけは言わせてもらいたい。
なンで俺だけが雑用なンだ? もう少しこちらに人数をわけろ。

(ま、元はと言えば一夏を怪我させた俺が悪いのだがな)

自業自得とはこの事だな。

「こらーっ、ナナくん!何サボってんの! こっちにレーザーアーム!」

「あとデータスキャナー借りてこい! ダ〜ッシュ!」

「あふぅ。それとぉ。超音波検査装置もお願いしますねぇ」

またしてま機材室への全力ダッシュwith重量物がはじまる。
俺はとにもかくにも汗だくになりながら、全力で機材を運びまくった。

「ナナくん、髪留め付け直して」

「ナナ! ジュース! 飲まろ!」

「わはぁ。お菓子とってくださぁぃ」

………………気のせいだろうか、だんだんと関係のない雑務までやらされている気がする。

「あ、シャンプー切れてるんだった。購買で買っといて。ハーブの匂いのやつね」

「ナナ、この本図書室に返してこい」

「んんぅ。今日の日替わり定食、みてきてくださぁい」

『……………OK、Fucking girl's。 ジルバ踊らせてやるよ』

「「「真面目にやります、ごめんなさい」」」

それでいいンだよ、クソ共。

『はぁぁ…………ったく』

深く、ため息を漏らす。幸運が数十年分は訪れないであろうくらい深く。

「くすっ…………」

そンな俺を見て、簪が可笑しそうに吹き出す。
そのわずかな微笑みは、だけれどダイヤモンドよりも眩く光って見えた。
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