IS夢小説

□第8章 夏休み
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「『………………』」

テーブルには5人5色の手料理が並ぶ。

その中でひときわ異彩を放つのは、やはりと言うかどうしてもと言うか、セシリアとラウラの料理だった。

「どうですか、海人さん。こう言ってはなんですが、自信作でしてよ」

見た目“だけ”は完璧なハッシュドビーフなのだが、辛党の海人でさえまいるほどその匂いは妙に辛い。

(こ、これは赤色の物を適当に入れたな……)

よく見ると、鷹の爪が浮いていた。

そして、ラウラの方はと言うと………

「おでんというのは中々に珍妙だな。バーベキューによく似ている」

大根、卵、ちくわ、こんにゃくを1本の長い串に刺しているだけでも普通ではないのだが、煮込んだはずのそれになぜか焼き色が付いている。
こんがりきつね色……なぜだ。

(こ、これは……いわゆる《マンガおでん》とごっちゃになっていないか……?)

どういう風に作ったかは、あまり想像したくなかった。

そして、ちらりとその横にある鈴の料理を見る。

「どう、あたしの肉じゃが。最高においしそうでしょ?」

本人は自信満々の様子だが、ジャガイモはかなり小さく、なぜかブロック状をしているビーフより小さい。
荷崩れ……では、ない。

(い、いや、味は大丈夫だろう)

(鈴の料理は見た目がアレなだけだ)

そう心を奮い立たせ、2人は安全ゾーンの料理へと視線を移す。

そこにはシャルロットの作った唐揚げと、箒の作ったカレイの煮付けが並んでいる。

お腹がいっぱいになることを考慮して1人1品にしてもらったが、今ほど料理は2人に任せておくべきだったと後悔したことはない。

(ああ、うまそうだ……
シャルは食べやすいように1口サイズの唐揚げにしてくれてるし、箒さんは純粋に料理がうまいな。
うん、これは早く食べたいぞ)

とはいえ、結果が散々であろうと凄惨であろうと、作ってくれたことは本当に心から嬉しいし、ありがたい。

そう思えば、がんばって作ってくれた料理を《まずい》とは言えないのが、2人の弱点と言えば弱点だった。

「じゃあ、みんなで食べようぜ。
待ってるだけってあんまり経験したことなかったんだが、結構腹か減るのな」

「そうだな。それでは夕食にするとしよう」

「一夏、小皿どこ?取ってくる」

「それでは、わたくしは飲み物を出してきましょう」

『なら、俺はコップだな』

「こうやってお互いに作った料理を食べるのは、何と言うか不思議な気分だな。
……しかし、悪くはない」

「そういうときは、楽しいっていうんだよ。ラウラ」

そう、楽しい。それは海人も同じだった。

よく束博士のためだけに料理を作っていた時も楽しくはあったが、それとはまた別の楽しさだった。
そしてそれは、喜びや嬉しさといった感情に近い。

『じゃあ、食べるとするか!』

全員が席に着いたところで、海人はまず先に言った。

『それでは皆さんご唱和ください。せーの―――』

「「「「「「『いただきます』」」」」」」

料理の味よりも、こうして全員で作って食べるということに、暖かな気持ちを抱きながら、夏の夜は過ぎていくのだった。
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