フェアリーテイル夢小説
□第13章
1ページ/10ページ
楽園の塔、最上階。
そこはとても広い空間だった。
その中で玉座のようなイスに座り、用意したチェス板を眺めている人物が一人。
その人物の名は“ジェラール”と言った。
深く被ったフードからは鼻から上の表情が見えない。
だが、口元は楽しそうに笑っていた。
「そろそろ出てきたらどうだ?」
ジェラールがそう言うと、天井から一部の影が盛り上がり、ドロリと落ちた。
落ちた影は徐々に形を作っていく。
そして、それが収まり、出てきたのはカイトだ。
『チッ……バレていやがったか』
「当たり前だ。あれほど敵意をむき出しにしていたら、イヤにでも気づく」
ジェラールはスッと立ち上がり、カイトを見つめる。
「まさか、エルザより先に道化が来るとはな」
『まーな……それより、てめえは余裕そうだな、ジェラール……いや、ジークレインと呼んだほうがいいのか?』
ジェラールはニヤリと笑うと、階段から飛び降り、カイトと向き合う。
「いつから気づいてた」
『さっき、親切な奴に教わったんだよ。
評議院の一人であり、聖十の称号を持つジークレインとジェラールは同一人物であるってな』
「そうか……まぁ、ジェラールが本当の名なんだ。そう呼んでくれ」
『ああ、そうかい。ジェラール』
そう答えるカイトの顔はいつになく真剣だ。
「ん?どうした。道化らしからぬ受け答えだな。
いつもみたいに、バカ笑いでも浮かべたらどうだ」
『ギルドの家族が苦しんでんだ。そんなときに笑っていられるかよ』
「殺り合うのか?」
『それがあいつのためならな』
二人の間には不穏な空気が漂う。
まさに、一触即発と言った感じだ。
『……プッ』
そんな沈黙を撃ち破ったのはカイトの方だった。
真剣だった顔はいつの間にか笑っている。
『カカカ、止めだ止めだ。魔力が全開じゃない奴を倒しても意味がねえ』
「オレを倒せば、エルザを救えるんじゃないか」
『カカカ……自惚れんなよ、てめえ』
先程までの笑い顔はどこへ行ったやら、再び真剣な顔つきになった。
『今のてめえごときなら、エルザが来る前に殺せる。
だが、それじゃ意味がねえ。
これはエルザの闘いだ。俺が割り込む余地はねえんだよ』
ピシッ
カイトの殺気に宛てられ、ジェラールの後方にある玉座にヒビが入った。
『それに……そっちのほうがおもしろいだろ♪』
そう続けると、周りの空気が緩んだ。
「つまり、オレとは闘えないということか」
『そーゆーこと♪じゃあ、俺はエルザたちの援護に回るからな♪』
それだけ言い残すと、カイトは再び影の中に潜り込み消えていった。
「……危なかったな」
残されたジェラールは人知れずに、そう呟くのだった。