□空風の帰り道
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「お〜い!周助!」
休日の部活を終えて夕焼けを背に不二は自宅へ帰る途中だった。
後ろから居るはずがない恋人の声が聞こえてきて驚いて振り返る。
「よかったっ!間に合ってっ…ハァ…」
全力で走ってきたらしい千石は不二の肩に手を置いて呼吸を整えていた。
「ごめっ…ちょっ…休ませてっ…」
こんなに息をきらした千石を不二はテニスの試合でも見たことがない。
「清純くん大丈夫?」
色々と聞きたい事はあったがとりあえず千石の背中を摩ってやった。
だいぶ息を整えて、千石は不二を見てにっこり笑った。
「間に合ってよかったよ。実は今日こっちで練習試合があってさ…今週一回も会ってないなと思って。」
そう言って唇を突き出してくる千石。
不二は微笑んでその腕からすり抜けた。
「そっか…ありがとう清純くん。でもどこで練習試合だったの?」
不二は千石の横に並んで顔を覗き込んだ。
千石はあ〜とかう〜とか言って悩んでいた。
不二はそれを見てクスクス笑った。
「あっちかな〜」
あさっての方向を指差す千石。
「なるほど。あっちの学校と。」
本当は別に近くの学校で練習試合があったわけではないのだろう。
多分足を伸ばしてここまで来てくれた。
そういう発想はとても千石らしい。
今日だってもう日は落ちかけているから多分少ししか一緒にはいられないのに。
「ありがとう。清純くん。でもちょっとしかいられないね…」
不二はちょっと寂しくなって千石と手を繋いだ。
「うん…でも一緒に帰れるよ?ちょっとでも一緒にいられるよ?」
少しだけじゃなくて少しでも。
千石が言うとそうなるらしい。
不二は千石と手を繋ぎわざと歩く速度を落とした。
「そうだね?僕も清純くんに会いたかったし。」
笑う不二を見て千石は嬉しくなった。
やっぱり不二は笑顔が1番可愛いと千石は思いながら繋いだ手をギュッと握った。
「ジャージでデートってなんか新鮮だよね。周助は何着てても可愛いよ?」
「ジャージが可愛いってなんかちょっとアブナイ人みたいだよ清純くん。」
「そうかなぁ…まあ周助は学ランも可愛いけどさ。うん。確かにアブナイかもな俺。でも周助が悪いんだよ。可愛いから。」
真剣な顔をして言う千石に不二は思わず顔をそらした。
思いがけず見た先には菜の花がチラチラ咲いていた。
「あ!菜の花だ…もうすぐ桜も咲くのかな?」
川沿いを歩いていた2人の横には丁度桜の木も並んでいる。
まだ少し寒いから蕾は固く閉じている。
「桜が咲いたらお花見しようね?あと夏は花火だね。海に泳ぎにもいかなくちゃなぁ…忙しいよ今年は。」
相変わらずにこにこしている千石を見て不二も微笑んで頷いた。
ゆっくりゆっくり歩いていてもだんだん帰り道は短くなっていく。
「…」
「…」
2人とも何も言わずにただ手を強く握った。
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