短き物語

□呆れた友の話
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「……サイアクだ。」


機械油でベトベトになった着物を見下ろす。
衝動的に頭を掻こうとして、その手もまた着物と同じだったために、苛立ちは少しも晴れる事が無く。
上げた腕は再び元の位置に戻された。

「…………はぁ。」

そして誰もいない工場で一人、溜め息。


……少し前、兄弟に負けちまった俺は、
源外のじーさんの手伝いをしてる訳だが……。

「はぁ。」

もう一度溜め息をつくと、また自分の体を見下ろした。

兄弟のと似ている黒い着物の裾は機械油でベトベト。
さっき言った通りスパナを持つこの手も、だ。

じーさんの言う事聞いて着替えときゃ良かったもんを何やってんだか。
最善が何か判断出来ねーなんて、今日はシステムの調子がわりーのかもな。

……言い訳か。
どうも、調子が戻らない。

兄弟に負けたあの時から、だ

それもこれも全部、

……はぁ。

心の中で三度目の溜め息。そんな自分に眉を寄せ頭を垂れた。
とりあえず任された事を終らせようと、最後のネジをしめ「よっ。」っとかけ声をかけて立ち上がる。

外はもうすっかり茜色に染まり、工場の中も薄暗い。
だがどこかおちついた空間となっていた。



町の催眠がとけた直後、俺はいろんなやつから責めるような言葉をうけた。

まぁ、特になにを思うでもないが。

でも、時が経つにつれて町のやつらも俺を受け入れるようになっちまった。
俺がなにをしたか分かっているはずなのに。


本当に呆れる。

この町はそんなにもお人好しばかりなのか。
それともただ、興味がないだけか。

どちらでもいいけれど、とにかく呆れる。


特にあの、俺とは正反対な銀色の兄弟には。


あいつの居場所を、俺は奪ったはずなのに。
あいつは俺をいとも簡単に許しちまった。

あいつは正真正銘のお人好しだ。


と、そこでフッと俺の前に影がかかった。
入り口に誰か立ったのか。

視線を送ると、さっきまで考えていた男がそこにいた。



「おい、ジジィいるか?」

「今はいねぇよ。」

スパナを何もないところへ投げて、原チャリを持つ兄弟のところへ歩く。
後ろでカランと、乾いた音がした。

「何の用だ?兄弟。」

「原チャリ直しに来たんだよ。で、すぐ戻る?」

「たぶんな。」

「んじゃ待たせてもらうぜ。」

そう言って許可も得ずに原チャリを工場へ入れるとそこへ座った。
そしてこちらを向く。

「お前、まだんなとこいたんだな。」

行く所がねぇからな。

そうは言わずに、かろうじて油で汚れていないところにどかりと座った。

自然と兄弟を見上げる形になる。
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