ぶっく

□慣れてて悪い?
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『門限、厳しいんだろ?』
『いいの。
今日、友達の家に泊まるって言ってきたから……』







「ふ、ふふふ、ふふふふふふ」

ついにここまで来た。

俺は部室のベンチに座り、携帯ゲーム機を握りしめながら肩を震わせる。
画面の中では、マイスィートエンジェル安海たんが上目遣いで俺を見ていた。
後は、
『駄目だよ。今日は帰りな。』
『よしオッケーじゃあヤるか』
の二択から正解を導けばいい。
そうすれば安海たんは、俺の部屋にやって来てくれる。

俺だったら絶対に後者だ。
しかしこれはゲーム。
いかにイケメン男子になれるかが鍵だ。
そう考えれば前者。
いや、あえて逆って場合も……

「……全部口に出てるよ?
次は『駄目だよ。今日は帰りな』の方。」

上から降ってきた声にはっと顔を上げれば、そこには我がチームのダブルエースが片割れ氷室辰也が、マイスィートエンジェル安海たんを覗き込んでいた。

「氷室!!!
安海たんはやらんからな!!」

俺はあまりイケメンな奴に安海たんを見せたくなくて、ゲーム機を背中に隠した。
安海たんが俺より氷室を選んだらどうしてくれるんだまったく。

「要らないよ。」

別に。
氷室はそっけなく安海たんから目を離すと、部活着に着替え始める。

「あっそ。」

なんだか安海たんを可愛くないと言われたようで、ちょっと、苛立ちを感じた俺は素っ気ない返事を返して氷室の言う、『駄目だよ。今日は帰りな。』の選択肢を選んだ。


『どうして?!』
『どうしてもだ。』
『……お願い』


部室の中に安海たんボイスが再び流れ出す。
上目遣いのお願いに主人公が折れ、安海たんを部屋に上げた。
そこから主人公と安海たん、二人のリア充会話が行われ、
『お願い、抱いて……』
安海たんからキスしてきたところでまたもや選択肢。

『なんかあったのか?』
『このまま玄関でいいか?』

ぐぐぐ……難しい。

「何かあった?って聞くべきか
いや、安海たんは俺んちにヤりに来てるんだから、このまま玄関で……」
「そこは『なにかあったの?』だから。」

独り言を少し苛立った氷室の声に

ぶったぎられる。
何に苛立っているかは知らないが、またもやイケメン氷室のターン。
安海たんそんなに可愛くないっぽいこと言ったくせに。

だがしかし、俺はここで
イケメンの言うことを聞かないほど馬鹿ではない。
部室に転がっていたボールを手で遊び始める氷室を一瞥して、俺はボタンを押した。

『何かあったのか?』
『……今日、電車でっ…ぅっ、痴漢、に……っ……』

安海たんが泣いている。
俺は可愛さ半分、泣かせた奴への怒り半分で
携帯ゲーム機を強く握りしめた。

『最後にっ…さわ、ったのが……っく、あんなのっなんて………や……っ!!』

泣く安海たんに悶えながら俺は

「『そっかと頭を撫でる』か
『無言で押し倒す』か」

で悩まされている。
なんでこう選択肢が多いんだよ。
俺は余裕だと装いながら今までのことを思い出す。
無理にはいかない。
ヤらない。
優しく。
その法則からすると…頭を撫でるんだ!!

「『無言で押し倒す』だよ
きっとその後怖がるから
抱き締めるだけで終わるんじゃない?
アメリカにいたときそんなシチュエーションあったけど、そうだったし。」


「氷室ェ」

相変わらず腕とボールとを戯れさせている氷室をキッと睨み付けた。
シレッとした顔で言ってしまいところがまたムカつく。

「氷室くんは、随分と女の子の扱いに慣れてるんですね。」

嫌みを飛ばしながら、俺は氷室に挑戦的な笑みを浮かべた。
ムカつく。ムカつく。
本気でムカつく。
更にムカつくのは氷室の返事。

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