その他の中編
□注文の多い非日常
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「別に、名無しさんちゃんが誰と話そうと構わないよ?」
正直閉じ込めたいってのはあるけど、と最後に怖いセリフを付け足す。
それを笑顔でいうものだからさらに恐怖する。
「俺が嫌なのは、男で相手が情報屋さんだから」
一人称が変わるだけこんなにも変わるものなのか。
そんなことを考えていたらいつの間にやら背中に壁がついた。それ以上は逃げれない。
唯一の道、前は笑顔の赤林さんだった。
「名無しさんちゃんは時々鈍いから分かんないと思うけど、情報屋さんは名無しさんちゃんが好きだよ。友愛じゃなくて男と女という意味で」
一言一言が矢のように私を差してくる。
折原さんが私のこと?馬鹿じゃないですか、そんな言葉も返すことも出来ない。
その矢を折ることも避けることも出来ず、私は視線を足に向ける。
「今日は情報屋さんと二人っきりだったの?もしそうだとしたら危ないよ?いつ襲ってきても可笑しく無いよ?襲われたら名無しさんちゃんは情報屋さんのことを倒せる?一応言っとくけど絶対無理」
グッと赤林は名無しさんの耳元に口を近づけ。
食べられちゃうよ?
まただ、この声。
以前にも同じことがあった…、私は思い出しブルリと虫唾(むしず)が走る。
バクバクバクバクバクと私の胸が騒ぎ始め、脳も急速度で血液を運び出す。
恐ろしい。
『…あ、赤林さん…』
ようやく絞り出せた。
しかし、この短い言葉を吐くだけで一時間もの時間を感じる。
「なーに?」
未だ勇気なんかより恐怖が勝り、頭など上げられないが。きっと彼はいつもどうりのフザけた笑みを浮かべているだろう。
今は赤林さんの笑顔どうこうではない、この場を…赤林さんをどうにかしなければ。
『目のことは折原さんに聞いたんじゃないんです』
「あ、そうかい。じゃあ四木の旦那とか?」
『い、いえ。茜ちゃんにです…』
勿論嘘。
しかし粟楠茜、茜ちゃんは年齢・性別…全てが今の作戦に生かされる。
赤林さんも茜ちゃんから聞けば納得するだろう、それと男から聞いていないとすれば赤林さんはもうどうでも良くなるだろう。
お願い、騙されて…。
ぎゅっと眉にシワを作り精一杯無い星空に願いを託した。
「なーんだ、お嬢からか」
それなら良いや、と赤林さんは柔和な言葉遣いに戻る。
恐る恐る顔を伺うと、そこにはもう“本職の彼”などいなかった。
ホッと全ての不安がドシャリと床へ落ちた。
「そっか、そっか良かった〜」
赤林は機嫌を直したのか、先ほどと同じようにテレビをつけダラダラし始める。
不安こそは取れたものの、未だに恐怖がこびり付いて中々落ない。
ただ棒立ちのまま名無しさんは再度確認した。
赤林さんに常識は通用しない。
あの人は非日常の住人なんだ。
(あ、そんなに気になるなら。見る?義眼?)
(いえ、結構です。グロそうなので)
(えぇ結構キレイだよ?)
(また今度で)
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