その他の中編

□死ねないくせに、
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珍しいことに最近赤林さんが来なくなった。





最低にでも二日に一回は来るのに、もう赤林さんが現れず五日目に差し掛かっている。


ようやく私に飽きて、大人の魅力に溢れた女性に見つけたのかと思い。あまり気にせずにいたらー…。
その三日後の深夜のことだ。





「やぁ名無しさんちゃん」




八日ぶりの彼はあまり変わっていなかった。
しかしその顔には痛々しい程の傷跡がー…。
この姿を見ると、あぁやっぱりこの人はこっちの世界の人では無いと感じた。





『…こんばんわ、今何時だと思いますか?』



「だって、名無しさんちゃんに会いたかったんだもん」


『いい大人が“だもん”なんて使わないでくださいよ』




八日前と変わらずの会話を続けていると、赤林さんが少し苦笑いを浮かべ。
珍しく弱々しい言葉を発した。




















「おいちゃんのこと怖いかい?」
























赤林は普段どうり接してくれてる筈の彼女に僅かながらの違いを察していた。
今の状況にどうして良いのか分からない、と。


やはり、この格好で会うのは不味かったか…。


そりゃそうだ、普通に生きていれば。こんな大怪我見ないで済む。
しかし彼女は優しさなのか、それともあまり俺に興味が無いのかいつもどうり接してくれる。




しかし、俺は彼女と多くの時間を過ごしてきている。







目の前の少女は俺を恐怖の対象として見ている。



























ー…おいちゃんのことが怖いかい?










本音を言えば怖い。
傷だらけの彼、見るに堪えない姿。
本当はヤクザなどと言った人に自慢できるような立場の人とは関わらない方がイイに決まっている。
しかし。






















『別に怖くないですよ』





























なにを今更、と少女が呆れたように答えると。
男は目をパチクリさせてから、唇で弧を描いた。









『それより中に入ってください、ご近所さんに見られたら色々とヤバイんで』




名無しさんは急かすように赤林を部屋の中へ入れる。
『早く、それ手当てしましょ。救急箱持ってくるんで顔とか洗ってきてください』と言い捨て、バタバタと名無しさんは走り去った。






一人ぽつんと置いて行かれた赤林は、何年ぶりか。自分の頬に熱を帯びたのを感じた。







ーー…あぁ惚れ直しちゃった。











「まいったなぁ」











自分にしか聞こえない独り言を呟き、赤林は洗面台へ向かった。




































(うわぁ痛そうですね)
(珍しくボコボコにされたよ〜、まぁ勝ったけどね)
(ゴキブリ並みの生命力ですね)
(相変わらず辛辣だね〜、でも死ぬかと思ったよ)
(・・・?)
(八日も名無しさんちゃんに会えなくて、ね)

























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