その他の中編

□ただいま
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『赤林さん、今から出かけるんで留守番お願いします』





もうそこにいるのが当たり前になってしまった赤林さん。
とうとうこの人に家の留守番を頼む日が来るなんて…。




「ん、了解。気をつけてね」と彼はさも当然のように私を笑顔で送る。





ーー…あぁこれじゃあ本格的に同棲しちゃってる…。







***










【50分遅れ】












デカデカと電子掲示板が自信満々にその言葉を綴(つづ)っていた。




電車が大幅な遅れが出て、駅は人人人ー…。
人であふれていた。
ある人は痺れを切らたしたのかUターンし立ち去るもの、またある者は名無しさん同様にホームに残る者。


名無しさんはふぅと小さくため息をつき、いつ来るのさえ分からない電車を健気に待つことに。


するとポケットの中の小さな電子器具が震えた。
手に握り、表示された名前をみるとー・・・。








【赤林さん】






やはり彼だ。
どうせ私の帰りが遅いから心配になって電話を寄越(よこし)してきたのだろう。
出るか出まいか少し悩むが携帯は私を急かすように震える。


仕方なく通話ボタンを押し、耳に近づける。









《あ、名無しさんちゃん?今どこ?》




やっぱり、と名無しさんは心の中で呟く。





『電車が止まってて…まだそっちには帰れません』


《なる程ね、心配しちゃったよ。今どこの駅?迎えに行く》


『え…いや…悪いですよ…』


《いーの、おいちゃんが早く名無しさんちゃんに会いたいだけだから》



何故この男はこう歯の浮くセリフを軽々と本人に吐けるのだろうか・・・。



《で、何処?》




『・・・東京です』



《はーい、じゃあ少し待っててね。変な男に話けられないように人目の多い所に居てね?じゃあ着いたら電話するから》



そう赤林さんはやや一方的に話、ブチリと通話を切る。
残るのはツーツーと電話の途切れる音。






***




赤林に言われたとうりに名無しさんは人目の多いカフェでコーヒーを飲んでいた。

ほんのしばらくしてから、また電話が蠢(うごめ)いた。
勿論相手は先ほど電話をかけてきた人物。







『はい』



《東京ついたよ、駅の目の前にいるからおいでー》



『分かりました、少し待っててください』






次はこちらからブチリと切り、言われたとうりの場所へ。









***








「名無しさんちゃーん、こっちこっちー」と少し離れたところでヒラヒラと手を振る赤林さんの姿が、少し足を急がせ彼の元へ。



『赤林さん、わざわざありがとうございます』まずは感謝の意を込めてお礼。
赤林さんはヘラリと笑い「気にしないで」とだけ言う。



「じゃあ早く帰ろ」と赤林は後ろに止めておいた真っ黒な車の扉を開け、名無しさんをそこへ誘い込む。
名無しさんは素直にそこへ入り、外観と同様真っ黒の革張りのシートに腰を沈めると。
隣から入ってきた赤林。


『ヤクザみたいな車ですね』と皮肉交じりに感想を述べる。



「現役だからね」


『それより、赤林さん車持ってたんですね・・・』


「持ってて不便なことは無いからね」と言い、手馴れた手つきでハンドルを握りアクセルを踏んだ。



「今日は何しに東京に?」



『買い物だけです』


「えぇーだったらおいちゃんもついて行けば良かった」


『女性の買い物は男性は嫌がるって聞きましたよ?』


「ただの女性≠セったらね。名無しさんちゃんだったら別だよ。むしろずっと一緒に居たいし」




あぁ、またこの人はこんな砂糖のような甘いセリフを・・・。
内心名無しさんはゲッソリしながらジトッと赤林を見つめた。
視線に気がついた赤林は微笑し。



「運転するおいちゃんに惚れちゃった?」






『そんな訳ないでしょ、ちゃんと前見てください』
























(到着ー)
(助かりました、それじゃあ赤林さん気をつけて)
(なんかおいちゃん帰るみたいだね)
(帰らないんですか?)
(帰らないよ?)






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