ブラコン:長編
□今日は僕だけの
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椅子に座り、目の前の鏡には琉生さんの姿が映った。
普段どうりの琉生さんのはずだが、目だけには真剣さが宿っていた。
あぁこれが彼の仕事姿なのだと名前は無意識に感じた。
「髪の毛、少し切っても良い?」
『あ、はい。どうぞ』
すると琉生は手馴れたようにハサミを掴み、名前の髪の毛に触れる。
ザクッと軽い音が何度も耳に入る、ハラハラと名前の髪は何の抵抗も見せず床へ。
「・・・やっぱり、名前を選んで良かった」
見えはしないが、琉生さんが笑っていることは背中で感じれる。
「もっと可愛く仕上げるからね・・・」
琉生の長い指は名前の髪に侵入した。
***
「凄いじゃん!滅茶苦茶可愛い!!」
「流石琉生さん!!!」
セットが終了すると、琉生の同僚達が名前を囲む。
皆それぞれの感想を述べる。
『・・・凄い』
名前も思わず感嘆の声をあげる。
目の前の鏡に映る自分は何だか違う人物のようだった。
髪型だけでこんなにも華やかになるんだ・・・。
名前は尊敬の意も込めて、琉生に視線を向ける。
琉生はフンワリとした笑顔を返した。
「じゃあ撮影・・・名前、おいで」
琉生は英国の紳士のように名前へ手を差し伸べる。
撮影の前に少し着替え、メイクも少しだけやりいざカメラへ。
「じゃあ自然な笑顔作ってー」
やたら慣れ慣れしい口調のカメラマン。
いきなり自然の笑顔と言われても・・・。
「恋人とか、家族のこと思い浮かべてみて」どこからかそんな声が耳に届いた。
ーー・・・家族。
チラリと琉生さんに視線を送る、琉生さんは頑張ってと私にエールを送るように微笑む。
ーー・・・家族。
フラッシュが名前の笑顔を焼きつかせる。
「いいね、もう一枚」カメラマンは指を一本上げ、カメラを構えた。