黒子のバスケ:長編
□善人の行き道とは
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『私この部屋が良いです!!!』
東京へ来て数時間、私は運命的な出会いをした。
「じゃあ一度見に行きますか?」
ニコリと優しく微笑み、そう提案してくれたおじさん。しかし私は首をブンブンを振り。
『いいえ!ココに住みます!』と一言返す。そんな私の奇想天外な発言におじさんは眉一つ動かさず、にこやかな笑みを絶やすことなく「そうかい?」と返してくれた。
『はい!』ともう一言元気よく返事すると、おじさんは机から一つの鍵と紙を出し、私に渡してくれた。
「じゃあこの紙に記入お願いできるかい?あと、これ部屋の鍵ね」
テキパキとおじさんは契約の準備をしてくれて、私も気分上々で契約にサインした。
『あー、良かったです。実は私実家をさっき出たばかりで住む場所全然決めてなくて・・・』
「そうだったのかい?それは結構なチャレンジャーだね」
『本当に良かったです、良い物件に出会えて・・・』と自分の名前の最後の一文字を書き終えた瞬間。
「すみません、この物件について知りたいんですが・・・」
フワリと洗剤では無い自然の香りが私の鼻腔を擽(くすぐ)り、隣に現れる片目の美青年。
一切歪みの感じない顔、嫉妬すらおこがましいほどの立ち姿。
神様はここまで不平等なのか、とすら思ってしまう程の美しい男性。
男性の言葉におじさんは少し眉を下げ、申し訳なさそうに口を動かした。
「すみません、その部屋はつい先ほどコチラのお嬢さんが・・・」
おじさんがそう一言言うと、片目の男性は少し残念そうな顔をする。
直接的に攻撃したわけでも無いのに、私の胸は少しチクリと痛んだ。
ーー・・・うわぁ、何か悪いことしちゃったなぁ・・・。
「あ、そうですか・・・」と男性は私と目を合わせ、顔を顰(しか)め睨むことも無く静かに私に会釈した。
その一つ一つの仕草さえキレイで私は見とれてしまった。
「こちらこそすみません・・・折角来て頂けたのに・・・」
「いえ、他をあたりま・・・『あ、あの!!』」
頭より先に口が動き、それに続いて体が勝手に動いた。
脳が正常に働いた頃にはもう既に私は立ち上がっていた。
半強制的に私は男性とおじさんの会話をストップさせ、片目の男性の方を向いた。
『良かったら一緒に住みませんか!?』
さきほどまでニコニコと笑顔を絶やさなかった、おじさんの表情すら驚きに変わっていた。
勿論、男性も一つしか見えない目をパチクリと瞬きしていた。
『わ、私すぐに出るつもりだったんで。その短い期間さえ我慢すれば・・・いや、その・・・嫌なら良いですけど・・・』
名前は段々と自信なく声を小さくしながら椅子へ座り込んだ。
ーー・・・あぁ!!!私のバカ!!!いきなり何言って・・・。
「ではお願いします」
え
次はおじさんと私が同じような表情をした。
「俺なんかで良ければ是非お願いしたい話なのですが・・・」
この日から私は妙な日常を送ることになった。
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