短編
□向日さんとのデート(未満)の話
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舞台袖から表れた裃姿の地謡と囃子。五色の幕が開き、面を付けた里女がゆるりと出てくる。
無表情に凝固した能面。動きの無い役者。不気味さを湛えた八瀬の僧侶。
そのまま二幕目に入る。小町が舞う、鼓や笛の音にのって。
限られた舞台の上。厳格な規定。全てがさらけ出された形式。静かな世界。その場で自由なのは主役[シテ]だけだ。
厳格に静かに劇は進む。怨みを吐き出す二人の霊。
美貌を傘に着た小町の晩年は誰も知らない。日本各地に彼女の伝承と墓が残っている。曰く、没落した貴女。地獄に堕とされたとも。
何れにせよ、彼女が幸福に亡くなったのではない事は確かであろう。
そんな彼女に生前近づこうとし、百夜目前で亡くなった深草少将。二人は幼い頃から親しかったと云う説もある。
そんな二人は……死して尚悩んだままだった。
それ故現世に、怨霊として留まっていた。
それを解放しようとする僧侶。彼のおかげでか、二人は何とか成仏する事が出来たのであった。