短編

□向日さんとのデート(未満)の話
2ページ/6ページ


 *

 氷帝では、繁華街以外なら寄り道は許可されている。
 だから私達は堂々と学校から渋谷へ向かい、ハチ公付近に群がる人々を尻目に通りを進んで行った。

 「ーー相変わらず、酷い人混みですね」
 「まったくだぜ、くっそ……。迷子になるなよ」
 「心配ご無用、向日さんより視界良好ですから」
 「てめッ、喧嘩売ってるのか?」
 「素人相手には売りませんよ……こっちですか?」
 「あー……混んでるから裏道から行くか。こっちこっち」

 109や東急本店へ向かう道を避けて原宿方面へ登って行く。そう、登りだ。
 意外と登り……と云うか、坂が多いのだ、東京は。

 「東京で平らなのは皇居やら官公省庁がある一部だけなんだってよ。あとは埋立地。周りが山あり谷ありだから、中心が攻められにくいンだと」

 そんな事を話しながら裏道へ抜ける。人口密度が一気に下がった。表通りの喧騒が微かに響いてくる。

 「……で、何処へ行くんです?」

 この先に何があるか、私は知らない。いやーー余り知らない、の方が正しいか。

 「戸栗美術館辺りですか?」
 「何それ、御節の博物館か何かかよ」
 栗→栗きんとんかよ。「陶磁器の美術館ですよ。戸栗 何某[なにがし] の個人収集だとか」

 博物館はハズレーーと。となると残るは……。

 「ーー能楽堂、ですか」
 「……アタリ」

 にやんと笑いながら向日さんは答えた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ