長編
□禄@
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盗撮は、残念ながら我が氷帝に於いてメジャーな問題である。
氷帝での盗撮は大きく分けて二つの種類がある。
まずはブロマイド目的ーー見目麗しい生徒や教師を狙ったパパラッチ的なものだ。
登下校や休み時間の様子、授業中の様子など。シャッター音が休まる暇は無く、一度ターゲットになれば一キロ減量は固い。回避方法はただ一つ、自らカメラに写りに行って状況を楽しむ事だ。若しくは、跡部さん並みの図太さを持つか。
個人個人での撮影が目立つが、ちゃっかりと写真部が裏取引を締めているとか。専用機材と熟練の腕前がものを言う、高価格な世界だ。
もう一つが、正に盗撮である。対象となるのは一般的な(倫理に悖る[もとる]事だが)下着類と……言っては悪いが遠因は学校にもあろう、半裸姿などである。
手厚い特待生制度により盛んなクラブ活動。各種設備完備による、最高のトレーニング環境。スポーツマンスポーツウーマンが己の肉体を鍛えるのに最適なのである。
何が言いたいのか、と。彼等はーー筋肉を、肉体美を求めての撮影が目的なのだ。半裸でのトレーニングを行う設備もあり、そこを中心に狙われているのだ。
勿論と言うか残念ながらと言うか……女生徒の露出写真の被害も多い、のだが。稀にあるのが、男子生徒を狙ったもので。
今回の笠原の相談はそれらしい。
「おんなもおとこの写真でヌくのか?」
「「死ねッ!」」
……と云う遣り取りの後で詳しく聞いたら、どうやらそう云う事らしかった。
「花も恥じらう乙女を何だと思ッてンのヨッ!」
「いや別に生理現象なんだからイイじゃんかよ」
「せめてオブラートに包め!」
聞き出すのに昼休みの残りを費やしてしまい、無情にもドヴォルザークが鳴り響き。只今五時限目の情報処理inパソコン室である。
情報処理担当の間陸先生(通称マリック)は、課題を熟し問題を起こさなければ文句を言わない教師筆頭。内職にはピッタリである。
「この休みに、先輩が被害に会ってな……。どうも、おんならしいんだ」
「何故ーー女だと解ったんだ?」
「髪が長かったらしい。腰辺りまで伸びていて、曲がり角で靡いたとか。色は茶だったそうな」
茶髪の女ーーか。ヴィジュアルが信用に与える影響は大きい。……ファンクラブの女だろうか?
財務省のホームページで貿易収支を探し、Excelにダウンロードする。……あ、項目の順番変えるの忘れてた。作業が増えてしまう。
「休みにわざわざ盗撮ッて……何て暇な奴」
「まあ、平日よか行動範囲が広くなるからなぁ。一概には言えんよ」
「その辺りの熱意に性別は関係無いだろうな、残念ながら」
笠原が同じ間違いをし、助言を求めてくる。だが私も解らない。見兼ねた石井が教えてくれる。一旦保存してから、揃えたデータを基にグラフを作成していく。
「と云う事はやっぱーーおんなもスるのか?」
「だからオブラートに……はぁ、やる奴はやるだろ」
「女の下着と裸は男が狙う。男の裸は女が狙う。かッ……グラビアで満足しとけッての」
「グラビアーーねえ」
「若しくは自分で下着を買うか」
「や、そりゃ不味いだろ!」
「イシミナちゃん、そりゃ別種の変態だ」
なんて。
きっと、この手の犯罪は無くならないのであろう。
グラビアで満足出来ないから、彼等彼女等は盗撮にはしるのだろう。
……自衛するしか、無いのだろうか。
「自衛ーーね。ま、今後は男女問わずに規制するしかないかな」
「でしょうね……ウチもカーテン増やすかねェ」
「……」
その点テニス部は恵まれている。跡部さんが私財をぶち込んで、新たに部室棟を建てるくらいなのだし。幸い、私も宍戸さんも、被害に合った事は無い。
「取り敢えず……生徒会に申告するしかないヨ。女の盗撮犯って珍しいから、そこもネ」
「それしかないか……」
「ーーだろうよ、うん……」
画面の時計表示を見るともう終了五分前だった。保存してExcelを閉める。シャットダウンへ。
「警戒が最大の対策ーーだ」