長編

□禄@
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 地区大会は勿論、優勝であった。
 私は消化試合の他は出番が無い筈だったのだが。

 まず、直前になって先輩がーーS3担当の長野原先輩が、突然退部届けを出したのだ。混乱の中それは無事に受理された。
 次いで、何故か他の選手も共に退部届けを提出し、それ等も受理された。都合二人である。
 そのため担当がズレ、私はシングルスでとは云え、全ての試合に出場する羽目になったのだ。

 当然ながら私は混乱した。しかしそんな事が原因で負ける訳にはいかない、同じく混乱している相手は皆叩き潰した。残った選手も奮闘し、結果、予定通りの優勝であった。
 労い[ねぎらい]と指摘と檄が飛びかう中、私はそっと、観客に紛れている石井に手を振った。あいつも振り返してくれた。

 それが、昨日まで。
 そして、今日。

 朝から幾何→文法英語→生物→古典という、月曜日から嫌がらせの様なコースをこなし、昼休み。私は放課後のメニューを、石井は総譜[スコア]を片手に昼食であった。……行儀悪いのは勘弁願いたい。
 お供はフルーツティー、梨風味である。名前は石井が解説してくれたのだが忘れた。因みに、鳳からの貢物だったり。矢張りあの後、石井の不興を買ったのだ。

 こんな感じだったもんで、普通は話しかけてこれるレヴェルの勇者なんかそういない。のだが。

 「ーー二人とも、ちょっといいかな?」

なんて。声をかけられたのだ。

 この時の私達はお世辞にも愛想良いとは言えない面構えだった筈なのだが、奴は引かなかった。
 ただ泰然として、「知恵を貸してもらってもいいかしらん?」と宣った[のたまった]のだ。

 奴とは。

 石井が絶賛敵認定している危険レヴェルカンストの未知の生命体=中禅寺記紀その人……ではなく。私の先輩でもなく。石井の先輩でもなく。

 笠原肇。我等がクラスメイトであった。
 ……いたな、こんな奴。
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