短編

□向日さんとのデート(未満)の話
1ページ/6ページ


 *

 「日吉。土曜日、暇か?」

 水曜日の放課後、私はそんな風に向日先輩に声を掛けられた。

 「……部活の後、と云う事ですか?」
 「そ、地球儀センセの都合で半ドンだろ。その後」

 半ドン=午後無し の方程式を打ち出してから暫し考え込み、先輩を見返した。にやにやと信用ならない笑みを浮かべている。

 「ーーご用件は?」
 「渋谷。あ、繁華街じゃねーぞ」
 「はしゃぐ訳ではないのですか?向日さんが?」
 「くそくそ、日吉の癖に生意気だぞ!」
 「では誘わなければ良いでしょうに」
 「……お前を誘ってるんだ」

 私はもう一度この、紅い髪の先輩を見た。私よりやや低い所にある、大きな瞳は今、拗ねたようにあちこちへ向きを彷徨わせている。

 「ーー亮もジローも空いてなかったんだよ!」
 「……でしょうね」

 理不尽な事に、怒りを顕にして怒鳴る先輩に私はため息をついた。まったく……。

 「構いませんよ、空いていますから」

 飲食費を出して呉れるなら、ですが。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ