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桐皇と誠凛WC試合後。
自分には成し遂げられなかったことを彼は成し遂げてくれた。
あんなに楽しそうな顔でバスケをする彼を見るのは本当に久しぶりだった。
大好きなものがある。
それはすやすやと寝息を立てる彼の寝顔と、照れたようにはにかむ彼の真っ赤な顔と、色欲に濡れた自分を獣のように求める顔と最後に一つ。
何よりも楽しそうにバスケをする姿だった。
深い眠りから目が覚めてそのとなりにあなたが居たとしても、普段からは想像もつかないベタなデートコースの最後にプレゼントをもらったとしても、二人きりの空間に甘美でそれでいて禁断な誘惑を感じたとしても、大切なものが一つ欠けていた。それが酷く胸を焦がした。
誰もが望みながら、どこか信じきれていなかったその結果に自分は自然と思考の波に誘われる。
視界の端にうつった青峰に黄瀬はふと我に返る。青峰は火神と黒子と向き合い何かを話している。
彼の世界の色はこれから色鮮やかになるだろう。バスケを失う以前よりもずっと。その隣に自分がいたら嬉しい。
馬鹿みたいだけれど、そこにそんなものがある保証もないけれど黄瀬はすぐそこに明るい未来が待っている気がして微笑んだ。
コートの中で敗北を知り呆然とした青峰に、火神が声をかける。
その一部始終はコートの外にいる黄瀬には聞こえなかったが、比較的近い位置に移動していた為雑音に紛れて火神の声が黄瀬の耳に届いた。
「……受け…ヤるか…よ 」
黄瀬は火神の言葉に目を丸くする。今、火神はなんと言ったのだろう。穏やかでない言葉のように感じたが聞き間違いではない。
はっきりと、聞こえた。まさかそんなことがあるなんて想像もつかなかった。
愛されている。そう確信していたはずだったのに。
◆
黄瀬の機嫌がすこぶる悪かった。灰崎との試合を前にピリピリしていると言ったわけでもなく、自分に対して何か思うことがあって拗ねているといった風に思えた。
一体なんなんだと青峰は首を傾げた。恋人である黄瀬の願いの中でたった一つ叶えられなくなってしまったことがあった。
そのことがふたりの関係に少しばかり溝を作っていたことは自負している。
けれども、先日の一件で、やっと大切なものに気づけたというのに。
黄瀬との関係も、バスケもまたきちんと新たにスタートを切り出せると思えたというのに、黄瀬は頬を膨らませていて自分と目を合わせようとしない。
「なぁ、黄瀬」
声をかけても、わざとらしく背を背けツーンとした態度をとられる。
「お前なぁ、なに怒ってんだよ」
それでも、そっぽを向いたままの黄瀬に青峰もはぁとため息をついて、口を開いた。
「とにかく、絶対試合勝ってこいよ」
黄瀬が驚いたように目を見開く。その瞳は少しばかり嬉しそうに揺れている。
青峰は、どうしようもないやつだと呆れながらも未だに頬を膨らませている黄瀬がどうしようもなく可愛くみえてぽんぽんと頭を撫でた。
琥珀の、細くて綺麗な髪を梳くと、はじめはびくりと肩を揺らした黄瀬も安堵したようにほおと息をつく。
暫くそうしていたら、あっという間に試合の時間になってしまった。
黄瀬は立ち上がって青峰のほうを見て堂々と宣言した。
「浮気の処置は、言い分によっては情状酌量の余地もあるっス!」
はて、浮気とはなんのことだと青峰は首を傾げたが黄瀬はそのままふいと背を向けていってしまう。
どうせまた馬鹿な勘違いをしただけに過ぎないが。
青峰はどうしようもない恋人に呆れながらも、嫉妬されたということに笑んだ。
◆
怪我の痛みをこらえてバスケをしてからどれほど経っていたのだろう。
生憎、気づかなかった自分には分からないが痛みを押し込めてでもバスケを続けた理由は痛いほど分かる。だからこそ、もう試合に出るなとは言えなかった。
普段することのないテーピングは若干、歪にはなったが、それでも黄瀬は照れ臭そうに頬を赤らめる。
ちゅっとわざと音を立てて足の甲にキスをすればその朱は益々色づいた。
「馬鹿、浮気者。しかも、祥吾くんを殴るなんてなに考えてんスか」
照れたかと思えば、頭上では罵倒が続く。
「なに考えてんのかなんて分かりきってるだろ。お前のことだけだよ」
素直に言えばまた黄瀬は頬を赤らめる。今度は耳まで真っ赤だ。
「じゃあ、火神っちと俺…どっちが大切?」
黄瀬がなにを言いたいのかわからない。何故そこで火神が出てくるのだろう。
呆れながらも、可愛くて仕方がない恋人の質問だ。青峰は至極真面目な顔をして言う。
「大切なのも大好きだと思うのもお前だけだっつの」
黄瀬は満足したように大きく頷く。
「火神っちと、浮気なんてもうしないでね」
「あのな、だから、なんでさっきから火神が話に出てくるんだ?」
お姫様は、とんでもない勘違いをしているようだ。浮気浮気と言ってはいたがまさかその相手を火神と思ってでもいるのだろうか。
「しらばっくれても無駄っスよ。俺、あんたと火神っちが夜の約束してたの聞いたもん」
「いつだよそれ!?お前絶対聞き間違いかなんかしてるだろ」
まさかそこまで見境がないと思われていたなんてとんでもなく不愉快だ。
青峰は愕然とため息をつく。けれどもなんだか、必死に否定することも馬鹿馬鹿しく思えて、青峰は出来る限りの優しさと愛情を詰め込んで笑った。
「俺にはな、お前だけだよ」
衝動も情熱も愛も何もかも、与えられるのは、与えたいと思えるのはたった一人しかいない。
「だから、お前は早く愛されてる自信身につけろ。そうすれば…」
(そうすれば、ずっと一緒に居れる)
男とか女とか関係なく、ずっと。
「青峰っち、好き」
「知ってる。これ以上好きにならなくても良いから、もっと俺を信用しろ」
「例え、青峰っちが本当にいつか浮気をして。それがね、火神っちとじゃなくて、もっと綺麗な女の人でもね。それでも……俺は自分以外の人間を抱いたその身体を、今までと変わらずに愛してるって言って抱き締めることが出来るよ」
それは一種の信頼なのだろうか。彷徨っても必ず自分の元に戻ってくるという妙な確信なのだろうか。
「そうだな、もし本当にそんなことがあったとしても何も知らないふりして、いつも通り笑っていてくれ」
そうすればきっと自分は黄瀬の思惑通り何度だって何があったって黄瀬の元へ帰るだろう。
いつだって、黄瀬が笑って自分の隣に居てくれるのならば。
「とにかく、お前今後は自意識過剰の聞き間違えはやめろよな」
「そんなの無理っスよ」
黄瀬は楽しそうに悪戯を思い浮かべた子供のように笑う。
青峰はその言葉と表情に眉間の皺を深くさせた。
「…なんでだよ」
青峰の純粋な疑問に黄瀬は、艶然と微笑んで言った。
「だって、好きなら仕方ないでしょ。俺は、百年経ってもあんたが好きだからずっと嫉妬するっスよ」
恋の秘訣
(最高に可愛い)