一万打リクエスト

□オフコース
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初めて出会ったのは確か、高校三年生の時の夏休み。大学のオープンキャンパス開催日だった。
今でも覚えている。お天気お姉さんが朝のニュースで「本日は真夏最高気温、熱中症にはお気を付け下さい。」なんて言ってたから、外に出るのやめようかと思っていた。
でもどうせ今日行かなかったら次も行く気無くすんだろうなという自分の性格を考えて、意地でも外に出た。
そしたら、最高気温も突き抜けて心臓が火傷するかと思った。
込み合っている食堂に入って、たまたま相席になった。
真夏の日差しが反射するのも眩しい白い肌に、真っ黒な羨ましいくらいにサラサラの髪の毛。
「どうぞ。」って言った声もすごくハスキーで聞き心地が良くて忘れられない。
くらりと眩暈がしそうになった。あれも一種の熱中症なんじゃないかな、とか思ったりもした。
完全なる一目惚れ。初めてこんなに面白いくらいに気持ちが転げ落ちる感覚を知った。
忘れられないまま、そのままオープンキャンパス終了後に高校に戻って、教師に向かって「第一志望決めた。」と言った。
相変わらず後先の考えない馬鹿なんだろうなと思う、今でも。
だっていくらオープンキャンパスで見かけたからって、そいつがこの大学に入学すると思えないし。そんな奇跡みたいなことあるのかよって。
でも、そんな奇跡みたいなこと、ありました。

「あれ?お前確かオープンキャンパスで・・・・」

奇跡だ。奇跡が起きました。
大学の入学式で、隣の席にそいつはいた。
夢かと思って、思わず二回くらい頬を抓って、三回目にスラックスの上から太ももを抓ってみた。
こちらはストライプのスーツを着ていたけど、そいつは黒い髪色に合わせてブラックスーツを着用していた。
これがまたとんでもなく似合っていて、なんというか、まさしくスーツに着られていない。
このままホストになったらすごいことになりそう、と思えるその男は、学長の挨拶開始十秒で「だる。」と呟いた。

それからもこの美人との奇跡は続いた。
入学式後の履修に関するガイダンスでは前の席に座っていたし、一年目の必修授業は全て同じクラス。
学部が一緒だったっていうのもあるのだろうけど、まさかここまで重なるとは思いもよらず。
その奇跡については相手も気づいていたらしく、一緒になるたびに「また一緒か。」と笑ってくれた。
その笑顔がまたあまりにも綺麗過ぎて、思わず見惚れてしまった。
重なり続ける奇跡のおかげですっかり仲が良くなって、何かにつけて一緒にいた。
昼食だって一緒に食べて、ゼミの飲み会でも隣の席に、お花見でも一緒。
唯一一緒にならなかったのは、地元での成人式くらいだろうか。これは仕方がない。地元が違うのだから。
でもどうしても成人式のスーツ姿が見たいと駄々をこねたら、呆れながら見せてくれた。また美人過ぎた。

この想いを告げたのは、成人式の後。
男が男を好きになるなんて、きっと言えば笑われるんじゃないだろうか。
でも、生真面目で優しい彼ならば笑わずにこの気持ちを聞いてくれると思った。叶わなくても。
バレンタインの日は平日で、授業も当たり前のようにあったから、当たり前のようにバレンタインチョコを貰っている彼を見ていた。
大学内でもこの美人は大変評判で、中高生のようにチョコを渡す為に呼び出される事も多かった。
でも、四限目の授業が終わった後、話があると言って彼に告白をした。

「ごめんな、俺、お前の事が好き。気持ち悪いって思われるかもしらねーけど、もう隠せない。」

その時に、彼はどんな顔をしていたか。
彼は、泣いていた。
泣き顔を隠しながら見るなと強がって、「これで嘘でしたとか言ったら殺すからな。」と言われた。
信じられなかった。彼はこちらが生粋の女好きと思っていたらしく、どうやって諦めようかとずっと考えていたらしい。

「平気な面して告りやがって。ほんっとムカつく。ムカつくし、なんで俺はコイツが好きなんだよ・・・」

そう言って泣く姿が可愛くて愛しくて、外だというのに思い切り抱き締めた。

元来お互いの志向云々は似通ったところがあったようだ。
三回生の冬に始まった就職活動でも、示し合わせたかのように企業説明会でばったり出くわした。
第一志望の企業はお互い一緒で、共に同じ企業から内定をもらった。
就職課の人からはほぼ同時に内定を勝ち取った二人に、「本当に坂田君と土方君は仲いいわね。」なんて言われたことも、いい思い出。
卒業式で見るスーツ姿も麗しい彼に、一生大事にしたいと思った。

そしてそれからまた年月は過ぎた。
銀時は今でも十代の頃に負った火傷を未だに大事にしていた。



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