ショート

□ホワイトメモリー
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こないだ、新八んとこの家の大掃除手伝ったんだわ。
気怠い時間を過ごしながら、銀時がふと思い出したように言った。
何の話だと土方が銀時を見ると、大した話じゃねえんだけど、と言って話を続けた。
着物の襟を直しながら銀時のフワフワとした銀色の髪の毛を見つめる。白く輝くその髪の毛は、窓から差し込む日差しを反射する。

「アイツのちっせー時の写真が出てきたんだよ。」

「ああそうか、志村んとこのアイツなら小さい時に写真はあるな。」

「そー。でもさ、まぁ写真の質もあの頃は悪かったじゃん?結構色褪せてんだわ。」

天人が台頭する前は日本に存在しなかった写真の技術。
おそらく新八の年齢ならば、その存在が幼い頃には日本に流通が始まりつつあったのかもしれない。
銀時曰く、お正月の時に撮ったものだったらしく、姉のお妙はしっかりとめかしこんでおませさんになっていたとのこと。
新八はというと、どうやら父親に「写真を撮ると魂を取られる」なんて迷信を言われてすっかり信じ込んでしまったのか、泣きそうな表情をしていたのだとか。
しかしあの当時はその迷信を信じる大人が沢山いたわけで、新八のように怯えながら写真を撮る者も少なくなかった。
だとすれば、あの写真で思い切りピースなんてしていたお妙の心臓の強さは計り知れないのかもしれない。

「写真ってさ、」

「ん?」

「なんで色褪せていくか分かる?」

銀時は話に関連付けるように切り出してきた。
どうして色褪せるのか?それはきっと日焼けによるものだったり、他の写真と擦れてしまったりと要因はたくさんあるだろう。
そういった理由を述べてみると、銀時は土方を見た。そして「それもあるな。」と言った。
しかしすぐに「でも違う。」と笑った。

「正解は、消えるから。」

「は?」

きっと数十年後には、ただの紙になる。
そう銀時は言うと、もうこの写真の話題に飽きたのか、別の話に変わった。
今度は神楽が家の米を空にしてしまったことについて。またわけの分からない話を、と思いながら土方は黙って聞いていた。
しかも神楽が米を空にしてしまうなんて今に始まったことじゃない。
大体いつもそうだろうが、と思うのだが、銀時はそれをおかしそう呆れながらも話す。
その様子はなんだか父親のようで、しっかり神楽の保護者をしているんだと土方も少し感心した。
そりゃ、もう神楽の傍にいてから月日は流れた。難しい年齢でもあるあの少女を、しっかりと見守り続ける銀時は、もはやどう見ても父親のようなものだった。
父親みたいだな、と言ってみると、銀時は少しキョトンとしたが笑って「じゃあ土方はお母さんじゃん。」なんて言う。
とりあえず引っ叩いておいたが、弱い力にしておいた。
そしてしばらくそんなくだらない会話をしていたが、また銀時は思い出したように別の話題を持ち出した。
「写真っていえばさ、」と、また写真の話だが。

「土方、ちっちゃい時の写真とかないの?」

「んなもんあるわけねーだろ。そんな高価なもんに触れる家でもなかったっつーの。」

「えー土方のちっちゃい時の写真見たかったなー。」

絶対可愛かったよね、絶対天使だよね、と銀時は必死で土方に確認をする。
しかし当の本人はそんなこと分かるわけもないし、そんなわけないと思うのだった。
くだらないことを言うなと戒めると、銀時は「こないだゴリラとな、」と今度はまったく新しい人物の名前を言い出した。

「居酒屋で出くわしてさ、ちょっと話してたわけ。」

「先週の事か?」

「そ。・・・そしたらさーゴリラがお前の話したんだわ。」

「水を差す様でわりーけどゴリラじゃねぇ。」

「まあゴリ・・・ゴリラがさ、」

「言い直してなんでまたゴリラになってんだよ。」

本題に辿り着くまでが非常に長い。
一通りゴリラの押し問答があってから、銀時は居酒屋での出来事を話し始めた。
トシはずっと優しいんだ、とかトシはできた奴だ、とかそんな自分の事を褒める話だったらしい。
トシ本人である土方は聞いていて若干恥ずかしい物があるが、黙って聞くことにした。

「トシは優しいが、一人ぼっちなんだ。・・・ってよ。」

「え?」

「本当に愛した者を、いつも亡くしてきた。俺はまだまだ生きるつもりだけどなってよ。」

土方は言葉に詰まった。本当に愛した者。それを辿ると、出てくるのは一人、二人。
近藤の事を慕い、沖田のことをなんだかんだと可愛がり、隊士達を大切にする土方にとってこの世で特別な感情を抱いた者。
その者達は既にこの世を去り、言葉を交わすこともない。土方の胸の中でひっそりと佇む存在。
一人ぼっち。そう唱えるのは間違ってはいない。大切にすればするほど、自分の元から零れ落ちる。

「だから、お前だけはアイツをずっと愛してやってくれよってさ。」

「・・・なんだそれ。」

「俺ら公認になっちゃったなー。」

「うるさいばか。」

結局恥ずかしい結論か、と土方がぷいっとそっぽ向いた。
すると銀時はクスッと笑って、布団の上で体勢を変えて仰向けに寝転がった。
そして天井をジッと見つめて、横目で土方を見て、真っ赤な耳を確認して、また天井をジッと見つめた。

ごめんな。

そう呟いた声が土方に届く時には、銀時は目を瞑って土方の手を握り眠る体勢になっていた。
そういえばまだ明け方の時刻。起きるには少し早すぎる時間だから、まだ銀時も眠たかったのだろう。
それにしては朝から随分饒舌だったな、と土方は思うのだが、気にせずに同じように眠る体勢に入った。
握り締めてくる手が少しひんやりとしていて、思わず両手で包み込んで温めた。

(俺は淋しくなんかない。)

土方は段々と自分の熱で温かさを取り戻してきた銀時の手を見た。
人間はいつだって一人だ。それは変わることが無い。それには慣れているのだ。
最近は、手を伸ばせばここにこの手があるのだけど。・・・それがいつも嬉しくて、その当たり前が幸せだった。
まだ少し冷えている小指を、親指と人差し指で摘むように包み込む。
段々と押し寄せてきた眠気には勝てず、土方は手をそのままにして、眠ってしまった。







「あ、副長おはようございます。」

「ああ。」

「今朝大江様からご連絡がありまして、会合の日程調整について折り返しご連絡をとのことです。」

「そうか。」

業務に着く時間帯になり、土方は隊士の報告を聞き、頭を仕事に切り替えた。
会合の日程変更が出たことにより、他の会議はどうなるか、と頭の中で整理をしていると、傍にいた山崎が「あれ?」と声を上げた。
なんだ、と聞けば土方の首元を見て、キョトンとしている。

「副長、ちょっと日に焼けました?」

「ん?…首焼けてるか?」

「いや、そっちじゃなくて、こっちです。」

自身の首筋に流れる髪の毛を摘まんで見せる。
意味が分からず首を傾げると、山崎は「日焼けしてますよ。」と言った。

「ちょっと茶色くなってる。後で毛先だけ切ります?」

「そうか?」

じゃあ頼むか、と土方は毛先を指先で摘まんだ。





写真ってさ、

なんで色褪せていくか分かる?


正解は、

(黒から、茶へ、茶から、浅黄色へと変化をし、そして、)



「ごめんな。」








2013.12.19

劇場版のDVDを手に入れたので、ふと過ったそれに関しての妄想を一つ。
十四郎くんが銀さんを介して百詛にかかってしまったら、というよくない妄想です。

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