逃避行少女
□逃避行少女
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「ごめん、棗……」
策略というか偶然に偶然が重なり敵陣へ行ってしまった乃木君。
お蔭で隣の日向君の殺気が一段と増えましたとも、ええ。
何故か日向君の隣のポジションへと強制連行させられた私。
何故だ。
そして視線が痛い。
「時宮」
「……ナンデショウ」
殺気が籠ったままの日向君の声音にびくびくしつつ、片言で言葉を返す。
そんな私を睨みつけた後、日向君はげしり、と私の足を踏んだ。
繰り返し言おう。
何故だ。
「お前、確か身体能力のアリスだったな」
「そ、うですが。……まさか」
「使え。足手まといになったら殺す」
先程アリス禁止と聞いたような気がしたがどうやらそれは私の空耳らしい。
そして始まったゲーム。
日向君が佐倉さんの頭部にラブあたっく☆をかました後(思っただけなのに日向君に足を踏まれた。読唇術でも使えるのか)、佐倉さんの反撃が開始した。
びゅんびゅん飛んでは当たる佐倉ズボールに、盛り上がってきたころ。
「う、」
びゅん、と私の方へとボールが飛んできた。
これを取るべきか。
個人的には当たってさっさと外野に行きたいのだが―――。
ちらり、と日向君の方を伺うと――目が言っていた。
「取らなきゃ殺す」
「……ハイ」
間違えた。実際に口で言っていた。
仕方なしに私は片手を伸ばす。
ぱし。
「え……?」
随分と間抜けな音だったろう。
私の手の中できゅるきゅると回転しつつも収まっているボール。
―――幾多もの猛者達を潰してきた(過大評価)ボールを、片手で、その掌だけで、取ってしまった。
あっさりと。
溜めも躊躇いも無く。
平然として。
吸い込まれるように。
意思を持つかのように。
―――ボールは、私の手の中へ。
「はい、日向君」
「「「「「「……」」」」」」
「……」
それを受け取った日向少年。
そして、日向少年による攻撃が開始した。
(不快な視線――)
(これは)